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ゴーンが記者会見で示唆した「逮捕の真相」

彼は、何故、マクロン大統領を非難したのか?

吉松崇 経済金融アナリスト

ゴーンはルノー・日産の連携を阻害し、自らの存在感を高めた

 ゴーンが指摘したのは、2018年(この年の終わりに彼が逮捕されるのだが)、フランス政府がルノーに対し、ゴーンCEOを再任する条件として、ルノーと日産の一層の経営統合を求めた事実である。

 つまり、フランス政府とマクロン大統領は、それまでのゴーンCEOによるルノーの経営に不満だったということだ。

 フランス政府はルノーの株式議決権の28%を握る大株主である。「一層の経営統合を求めた」ということは、マクロン大統領とフランス政府は「日産はルノーが株式議決権の43%を握る実質子会社であるにも関わらず、経営の独立性が強すぎて、ルノーが投資に見合うメリットを得ていない」と考えていたという事だ。

 外部から詳しいことは窺え知れないが、おそらくマクロン大統領はゴーンの解任も検討したのだろう。

拡大安倍首相を出迎えるマクロン仏大統領(右端)。右から3人目はブリジット夫人、4人目は昭恵夫人=2019年8月24日、フランス・ビアリッツ

 どう考えても、マクロン大統領とフランス政府に逆らって、ルノーの経営はできない。ゴーンがこの年にCEOに再任されたということは、彼はフランス政府の要求を呑んだのだろう。この記事によれば、それは持ち株会社の下にルノーと日産を子会社とする方式だったようだ。

 「フランス政府の要求が私を窮地に陥れた」というのがゴーンの描くストーリーだが、ここでブルームバーグの記事は、この記者会見を見た或るルノーの幹部の異なる見方を紹介している。

 この匿名のルノー幹部によれば、「ルノーと日産の間に本当のアライアンスなんて、存在しなかった。何故かといえば、ゴーンこそがアライアンスの障害だったからだ。ゴーンは、ルノーと日産の間のコミュニケーションを阻害することで、彼自身を両社で不可欠な存在にしたのだ」という話になる。

ルノーの大失態が生んだ日産のガバナンス機能不全

 カルロス・ゴーンは、ルノーによる日産への出資に伴って、ルノーにおける上席副社長の役職を維持したまま日産に入社した。そして2000年6月に取締役COOに就任し、さらに2001年6月からは取締役CEO、つまり日産のトップとなった。

 日産での成功を評価されたゴーンは、2005年5月にはルノーの取締役CEOにも選任される。これによりゴーンは、ルノーと日産というフォーチュン・グローバル500にリストされる世界的大企業2社のトップを同時に努める世界で初めての経営者となった。

 しかし、同一の個人が親会社であるルノーと子会社である日産のトップを同時に務めるというのは、異例なだけでなく異常な事態である。何故なら、子会社である日産の株主総会で取締役であるゴーンを選任する議決権を行使するのが、ルノーのトップであるゴーン自身だからだ。

 もちろん、全ての日産の取締役について、ゴーンによる支配が及ぶのだから、これでは日産の経営がゴーンの独裁になることは火を見るより明らかだ。

 ゴーンが逮捕された後で、「トップの不正が見過ごされてきた日産のガバナンスの機能不全が問題である」というジャーナリストや経営評論家の見解がメディアを賑わせた。だが、それは、ルノーが子会社のトップをルノー自身のトップに選任したという大失態が生んだ構造的なものなのだ。

 この構造では、ゴーンでなくとも、子会社で独裁体制が必ず成立する。

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筆者

吉松崇

吉松崇(よしまつ・たかし) 経済金融アナリスト

1951年生まれ。1974年東京大学教養学部卒業。1979年シカゴ大学経営大学院(MBA)修了。日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)、リーマン・ブラザース等にて30年以上にわたり企業金融と資本市場業務に従事。10年間の在米勤務(ニューヨーク)を経験。2011年より、経済・金融の分野で執筆活動を行う。著書:『労働者の味方をやめた世界の左派政党』 (PHP新書、2019年)、『大格差社会アメリカの資本主義』(日経プレミアシリーズ、2015年)。共著:『アベノミクスは進化する』(中央経済社、2017年)。

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