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今備えるべき新型コロナウイルス対策は何か

日米英3カ国の専門医資格を持つ矢野晴美医師に聞く

岩崎賢一 朝日新聞記者

 新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大。世界保健機関(WHO)がついに緊急事態を宣言、日本政府が「水際対策」を強化するなど、様々な動きが出ています。そんな中、中国や日本で、すでに無症状の感染者が見つかるなど、新しいフェーズに入っていると見る感染対策の専門家もいます。ドラッグストアでマスクが売り切れになるニュースが流れていますが、私たちは今、感染症の情報をどのように理解し、どう備えた方がいいのでしょうか。東京でもオーバーシュート、ロックダウンの可能性も危惧されます。

新型コロナ拡大成田空港でサーモグラフィーの前を通って入国する人たち(AP)

情報の洪水にどう対応するか

 厚生労働省がメディア向けにアラートを出し始めたのは、2020年1月6日です。「中華人民共和国湖北省武漢市における原因不明肺炎の発生について」として、2019年12月12日~29日の間に59例の確定例があり、うち7例は重症で、死亡例はまだないとされていました。類似疾患のインフルエンザ、鳥インフルエンザ、アデノウイルス、重症急性呼吸器症候群(SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)は否定されている、として、武漢市の帰国者に、咳や発熱等の症状がある場合はマスクを着用して医療機関を受診するよう、協力を求める内容でした。

 その後も患者は増え続け、WHOは緊急事態宣言について一度は見送ったものの、日本など中国以外の国々で感染が拡大していることなどから1月31日(日本時間)に宣言し、注意喚起を図りました。

 日本政府も、「指定感染症」の施行を2月1日に繰り上げ、封鎖されている中国・武漢がある湖北省に滞在していた外国人の入国を拒否する対策を始めました。日本人の湖北省への渡航中止勧告も出されています。

 こうした状況は刻々と変化していくうえ、テレビなどメディアを通じて様々な人がコメントし、SNSも含め、情報の洪水が起きています。私たちはどう判断し、行動したらいいのか。「インフェクションコントロールドクター」であり、アメリカ、イギリス、日本の感染症や熱帯医学の専門医資格を持ち、国際旅行学会認定医でもある、国際医療福祉大学医学部医学教育統括センター・感染症学の矢野晴美教授に尋ねました。

新型肺炎拡大1月31日付の朝日新聞夕刊1面

鳥インフルエンザより圧倒的に低い致死率

――WHOの緊急事態宣言を、市民はどう理解すればいいのでしょうか。

 2000年代に入り、SARSや新型インフルエンザなど何年かに一度、未知の感染症が起き、日本でも感染対策の強化が行われてきました。「今回が終息してもまた次が来る」ということで、ふだんから感染対策のレベルを上げておくということです。日本のレベルは、風疹が蔓延し、麻疹もぽろぽろ発生しており、まだ脆弱なところがあります。

 WHOが2月2日に公表したリポートによると、感染が確認された患者数は世界で14557人で、亡くなった人は305人となっています。現時点での致死率は、鳥インフルエンザに比べると相対的にかなり低いです。論文に出ているもので推測すると2%程度です。ところが、感染症の専門家の間では今、無発症でウイルスの保有者が数十万人規模でいると予想されています。それが分母となると、致死率はかなり下がります。2009年の新型インフルエンザのパンデミックの致死率は1%を切り、世界的には0.2~0.4%程度でした。もしかしたら、それに近いか、それよりも低いのかも知れません。

不要不急の動きは控えて

――無症状で新型コロナウイルスを持つ人が現れました。WHOのテドロス事務局長は、記者会見で「これ以上の移動や貿易の制限が必要だとは考えていない」と述べています。一方で、航空機の運航を止める航空会社が出てきたり、入国やビザ発給を制限している国も出てきたりしています。市民は現在のフェーズをどう理解すればいいのでしょうか。

 今は、不要不急な動きはやめた方がいいということです。優先順位からすると、患者が一番多く、症状のない微生物保有者が多いと考えられる中国、特に武漢への渡航は控えた方がいいレベルだと思います。
2月2日のWHOのリポートによると、中国の次に患者が多いのが日本やタイ、シンガポールになります。患者が多い日本で暮らす人たちは海外へ行かない方がいいのか、という話にもなります。現時点で、日本人の渡航を制限することは、武漢以外にはないと思います。ただし、日常生活では人と接触するので常にリスクがつきまといます。基本的な感染対策を個人が心がけることに尽きると思います。

――新型コロナウイルスの患者数に関する数字が毎日報道されていますが、どのように理解したらいいのでしょうか。

 論文情報によると、中国で報告数が一番多かったのは1月8日です。報告数による疫学カーブは、それ以降下がってきています。SARSのときは、医療従事者の2次感染があったので二峰性にもう1回上がりました。今回はどうなっていくのか分かりませんが、感染対策の一つの目安にはなるでしょう。

新型肺炎拡大羽田空港国際線ターミナルの到着口には注意喚起を知らせるポスターがはられていた=2020年1月31日、岩崎撮影

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筆者

岩崎賢一

岩崎賢一(いわさき けんいち) 朝日新聞記者

1990年朝日新聞社入社。くらし編集部、政治部、社会部、生活部、医療グループ、科学医療部などで医療や暮らしを中心に様々なテーマを生活者の視点から取材。テレビ局ディレクター、アピタル編集、連載「患者を生きる」担当を経て、現在はオピニオン編集部で「論座」編集を担当。『プロメテウスの罠~病院、奮戦す』『地域医療ビジョン/地域医療計画ガイドライン』(分担執筆)。 withnewsにも執筆中。

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