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今備えるべき新型コロナウイルス対策は何か

日米英3カ国の専門医資格を持つ矢野晴美医師に聞く

岩崎賢一 朝日新聞社 メディアデザインセンター エディター兼プランナー

封じ込めは難しいフェーズに

――アウトブレイクした国を封じ込めればいいと考える人もいます。日本でも「水際対策」が強調されていますが、対策の力点はそこなのでしょうか。

 武漢を封鎖したのは致し方ないことだと思います。どれぐらいの病原性があって、どれぐらいの感染力があるのか、分からなかったためです。情報が少ない中で、できることは感染経路を断つことが最重要で、人の動きに制限を加えることは仕方がなかったと思います。

 一方で、少人数ではありますが、世界中に患者が広がっている状況でどうすればいいかということですが、いわゆる鎖国のようなことを日本がするのがいいかというと、クエスチョンマークが浮かびます。

 恐らく日本国内でも、中国人旅行客の患者がバスツアーで移動していますし、新型コロナウイルスは潜伏期間が長い印象があります。多くの接触者がいるので、現実的には封じ込めるのがもう難しいフェーズに入っているのではないかと思います。

新型コロナ拡大閉鎖された中国・武漢市の市場(AP)

マスク過信せず、手洗い徹底を

――新型コロナウイルスが国内でヒト-ヒト感染を起こし始めていることを想定したうえで、市民はどのような感染対策を心がければいいのでしょうか。

 最も大事なことは手洗いです(アルコール消毒を含む)。マスク着用を勧める人がいますが、症状のない人が予防的にマスクを着用することに確かなエビデンスが少ない、というのが国内外の専門家の認識です。

 医療機関でさえ医療従事者がマスクを適正使用していないケースがあります。鼻が出ていたり、皮膚に密着していなかったりすると感染を防ぐことはできません。マスクの着脱で触った手が最も汚れているので、その手で色々な環境表面を触ると、そこで2次感染が起きます。電車に乗るときにマスクは必要ですかという人がいますが、それより手洗いをきちんとする方が現実的な予防方法です。

 一般市民の人たちは、マスクをしているつもりで守られていると思っている人が多いですが、効果は限定的であることを理解していただいた方がいいと思います。

――厚労省もマスク着用については、飛沫を飛ばさないための「咳エチケット」といっています。

 咳エチケットの方法の一つはマスクですが、もう一つは咳をする際、ハンカチや肘で口をふさぐことです。手で押さえると手が汚染されてしまい、その手で色々なところを触って2次感染が起きます。人と触れない肘で口を押さえてくださいということです。

――マスクも汚染された部分に触れないで処理することが重要ですね。

 冬場ではインフルエンザや他のかぜのウイルスも付着している可能性もあり、マスクの本体部分は触らないこと。そして鼻のところをワイヤーで密着させるわけですが、ずれてきたら取り換えましょう。取り外しはゴムのところを持って外し、捨てます。

 マスクは長時間しているほど表も裏もウイルスだらけになります。例えば、食事のときにマスクをテーブルに置けば、そこが汚れます。そういうところで感染が広がっていきます。

――手洗いが最重要ということですが、アルコール消毒でもいいのですか。

 手洗いは、流水で洗うか、アルコール消毒薬で手を消毒するかです。家庭なら、手などは消毒用アルコール(70%)、環境表面をふく場合は、アルコール消毒薬や次亜塩素酸ナトリウム(0.1%)などが有効とされています。

――乳幼児は幼稚園や保育園に通い、感染症にかかりやすい環境で暮らしています。保護者の中には子どものマスクがないと焦っている人がいます。どうアドバイスしますか。

 今、子どもの外出を控えるというレベルではありません。子どもはマスクをしていても手で触ってしまいます。まずは手洗いがきちんとできるようにしましょう。

新型肺炎拡大新たなフェーズに入っているのか。インタビューで解説してくれた矢野晴美教授=2020年1月31日

免疫力を高める生活を

――日常生活の中で人とまったく接触しないことは難しい。終息するまで在宅勤務というわけにも、ネット通販で暮らすわけにもいきません。幼い子どもを抱えた人たちは保育園も悩みの種です。身を守るためにどこまでしなくてはいけないか、悩む人が多いと思います。

 多くの人が触るような電車やバスのつり革などに触れて帰宅したら、必ず手洗いをするということに尽きます。ベースとしての感染対策を高めるための「ステップゼロ」は、年齢ごとの標準的なワクチンを接種しておくということです。その次に手洗いと咳エチケットです。

 免疫力を高めるという観点からアドバイスすると、規則正しい生活をする、十分な睡眠を確保する、バランスの取れた食事を取る、運動を適宜する、といった健康の維持・増進に必要なことを続けていくことに尽きます。

 日ごろの健康に対する認識を一気に上げるのは大変です。100を基準とすると、標準的なワクチン接種で50をカバーして、手洗いや消毒を徹底することでそれが60に上がり、咳エチケットで80になるというようにベースを高めることが大切です。そこまでベースが高ければ、例えエボラ出血熱や新型コロナウイルスでも準備することは少なくなります。

 さらに、自分が抱える疾患名、どの薬は何の病気のために飲んでいるかを知っておくこと。健康リテラシー、薬リテラシーを高めていきましょう。

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筆者

岩崎賢一

岩崎賢一(いわさき けんいち) 朝日新聞社 メディアデザインセンター エディター兼プランナー

1990年朝日新聞社入社。くらし編集部、政治部、社会部、生活部、医療グループ、科学医療部などで医療や暮らしを中心に様々なテーマを生活者の視点から取材。テレビ局ディレクター、アピタル編集、連載「患者を生きる」担当、オピニオン編集部「論座」編集を担当を経て、2020年4月からメディアデザインセンターのバーティカルメディア・エディター、2022年4月からweb「なかまぁる」編集部。『プロメテウスの罠~病院、奮戦す』『地域医療ビジョン/地域医療計画ガイドライン』(分担執筆)。 withnewsにも執筆中。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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