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EUを離脱した英国の切り札「漁業カード」

英国はブレグジットで影響力を落としても経済的には悪い話ばかりではない

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

 1月31日、イギリスがEUから離脱した。

 とはいっても、2020年は移行期間とされており、欧州議会からイギリスの代表が撤退するなど、イギリスはEUの意思決定プロセスに関与しないこととなるだけで、経済的には2020年末までイギリスはEUの関税同盟と単一市場の中にとどまる。

 2月以降直ちに経済的な変化が生じるわけではない。これまで述べてきたことも踏まえ、今後のイギリスとEUの関係を検討しよう。

2021年以降、無協定状態になったら?

拡大Moloko88/Shutterstock.com
 今議論されているのは、2021年以降どうなるかである。

 ジョンソン首相は移行期間である2020年中に自由貿易協定を締結すると主張し、EUとの合意で認められている2022年までの移行期間延長は要求しないと主張している。これは昨年末の選挙公約であるとともに、離脱に関する国内法にも規定されている。

 このため、もし2020年中に自由貿易協定に合意できなければ、2021年から、イギリスとEUは相互に通常の関税を適用することになる。イギリスとEUとの関係が、自由貿易協定を結んでいないアメリカなどの国とEUとの関係と同じようになるということである。日本とEUの間には自由貿易協定があるので、貿易・投資の関係では、それより疎遠なものとなる。

 自動車について見ると、自由貿易協定を結べば関税はゼロになるが、結べなければ10%の関税が適用される。イギリスに立地している自動車工場が最終製品の50%に相当する(鉄や電子器具などの)部品をヨーロッパ本土から輸入して、ヨーロッパ本土に自動車を輸出している場合、部品にも自動車にも関税が10%かかるとすると、部品への関税で製造コストは5%上昇し、これに10%の自動車関税がかかるため、実質的な関税は15.5%に上昇する。

 これはイギリスの自動車工場にとって、大きな打撃となる。イギリスに工場を持つ日本企業は立地の再検討を迫られることになる。


筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。20年東京大学公共政策大学院客員教授。「いま蘇る柳田國男の農政改革」「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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