英国はブレグジットで影響力を落としても経済的には悪い話ばかりではない
2020年02月04日
1月31日、イギリスがEUから離脱した。
とはいっても、2020年は移行期間とされており、欧州議会からイギリスの代表が撤退するなど、イギリスはEUの意思決定プロセスに関与しないこととなるだけで、経済的には2020年末までイギリスはEUの関税同盟と単一市場の中にとどまる。
2月以降直ちに経済的な変化が生じるわけではない。これまで述べてきたことも踏まえ、今後のイギリスとEUの関係を検討しよう。
ジョンソン首相は移行期間である2020年中に自由貿易協定を締結すると主張し、EUとの合意で認められている2022年までの移行期間延長は要求しないと主張している。これは昨年末の選挙公約であるとともに、離脱に関する国内法にも規定されている。
このため、もし2020年中に自由貿易協定に合意できなければ、2021年から、イギリスとEUは相互に通常の関税を適用することになる。イギリスとEUとの関係が、自由貿易協定を結んでいないアメリカなどの国とEUとの関係と同じようになるということである。日本とEUの間には自由貿易協定があるので、貿易・投資の関係では、それより疎遠なものとなる。
自動車について見ると、自由貿易協定を結べば関税はゼロになるが、結べなければ10%の関税が適用される。イギリスに立地している自動車工場が最終製品の50%に相当する(鉄や電子器具などの)部品をヨーロッパ本土から輸入して、ヨーロッパ本土に自動車を輸出している場合、部品にも自動車にも関税が10%かかるとすると、部品への関税で製造コストは5%上昇し、これに10%の自動車関税がかかるため、実質的な関税は15.5%に上昇する。
これはイギリスの自動車工場にとって、大きな打撃となる。イギリスに工場を持つ日本企業は立地の再検討を迫られることになる。
このため、これから行われるEUとの交渉に関心が集まっている。
EUからは、EUと同等の労働や環境等の規制水準を採用することをイギリスが約束しなければ、関税ゼロでのアクセスは認めないという the level playing field の議論が出ている。日本とEUの交渉は4年もかかったことを踏まえ、1年以内で交渉をまとめることは困難だという発言が相次いでいる。
イギリスを競争相手とみて、その力を削ぎたいという意図もうかがえる。
すでにメルケル独首相も、イギリスは競争相手となると主張している。また、EU加盟国の首脳からは、経済規模の大きいEUはイギリスを交渉で圧倒できるという発言も出ている。
金融サービスについては、EUを含むヨーロッパ経済領域内のどこか1か国で認可されれば、領域内のどの国でも自由に金融業を営むことができる「シングルパスポート」という制度がある。このため、金融機関の多くがシティのあるロンドンにヨーロッパでの事業拠点を置いている。しかし、離脱後EUがイギリスにこの制度を認めるかが問題である。
EUが結んでいる自由貿易協定の中の金融サービスでは、EUと同等の規制を行っている国に限りEUへのアクセスを認めるという同等性評価(equivalence assessment)を要求している。イギリスの金融制度にEUとの同等性を認めるかが争点となる。
しかし、イギリスはそんなに弱い立場なのだろうか?
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