アスクルが画期的な試み。日本のコーポレート・ガバナンスの向上に一石を投じる
2020年02月21日
オフィス用品大手アスクルは2月5日、新たな取締役会の体制を発表した。
昨夏、親会社のヤフー(現・Zホールディングス)とのあつれきで社長が解任されたほか、独立社外取締役の選任議案も否決され、経営者を監視する独立社外取締役がゼロというコーポレート・ガバナンス(企業統治)のうえで異常な状態が続いていた。
今回の新体制はこの解消を図ったもので、当時の反省から、徹底的な選考手続きの透明化に挑んだ。
この「アスクルモデル」(同社関係者)という手法が今後、日本社会に普及するか注目を集めている。全体としては形式論にとどまっていた日本のコーポレート・ガバナンスだが、実質的に機能し始める可能性がある。
2月7日午後、アスクルの指名・報酬委員会(暫定)の委員長を務めた国広正弁護士と、委員の落合誠一・東大名誉教授が東京都内で記者会見した。2日前に発表した新たな独立社外取締役の候補4人を選んだ経過を説明し、記者との質疑に応じた。
国広弁護士によると、第一段階として30人のリストを作成したことから選考作業を始めた。この中から実際に接触するなどして4人に絞りこんでいったという。
この4人には、あえてZホールディングスの経営者や、昨夏に同社から解任された元独立社外取締役の斉藤惇・日本野球機構コミッショナーらとも面談して意見を交わし、コーポレート・ガバナンス上の問題点を自ら理解・納得したうえで、候補になってもらったという。
そのうえで今回、目を引いたのは、正式に選ばれる3月13日の臨時株主総会に向けた4人の「抱負文」だ。
4人は、コーポレート・ガバナンスやコンプライアンスに詳しい弁護士の市毛由美子、電子商取引の経験が豊かな後藤玄利、コーポレート・ガバナンスの知見を持つ麗澤大教授で内閣府消費者委員会委員長の経験もある高巌、元IHI副社長の塚原一男の各氏。
4人とも1500字前後とそれなりの分量をアスクルを通じて公表した。このうち一人、塚原一男・元IHI副社長は「やるべきことは2つ」と明示した。
一つは、赤字が続く個人向けネット通販のロハコ事業を中心とした経営戦略の策定。もう一つは、コーポレート・ガバナンスの再構築で、主要株主と経営陣が信頼関係を築くことが大切だと説き、対話を促した。
昨夏、アスクルとヤフーは、アスクルが運営するロハコ事業の経営をめぐって対立した。
譲渡を求めるヤフー。それを拒否するアスクル。結果的にヤフーなどの大株主が岩田彰一郎社長の再任に反対し、吉岡晃COO(最高執行責任者)を昇格させた。さらに岩田氏の再任を維持した3人の独立社外取締役もヤフーなどの反対で取締役になれずに退任した。
このヤフーの対応には、コーポレート・ガバナンスの団体や専門家から批判の声が上がった。
親子で上場しているの場合、かねてから親会社が大株主の立場を利用して子会社の利益を必要以上に吸い上げ、子会社の一般株主の利益が損なわれる可能性が指摘されていた。このため会社法の専門家は「親会社から一般株主の利益を守るのが独立社外取締役の仕事で、その独立社外取締役をいたずらに解任すれば、ガバナンスの基本構造が成り立たなくなる」と異口同音に指摘した。
それでもヤフーは強行し、数の論理で決着を付けた。
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