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新型コロナ対策に消費税収を投入すべきだ

「全額を社会保障に」の約束を今こそ守れ

小此木潔 上智大学教授(政策ジャーナリズム論)、元朝日新聞論説委員

 新型コロナウイルスによる感染症拡大の危機が、日常生活にパニックを起こしつつあるように見える。感染の世界的な広がりが、リーマン・ショックと呼ばれた2008年の金融恐慌(フィナンシャル・パニック)を上回る世界「コロナ恐慌」とでも呼ぶべき危機につながりかねない。

 そんななかで、日本の緊急対策は後手に回り、本格的な対策への転換が求められている。その財源をきちんと考えることが不可欠である。

 ここで考えたいのは、「消費税法」の規定をもとに政府が「消費税収の全額を社会保障にあてる」と説明してきたことだ。感染症のパンデミック(世界的な大流行)とグローバル恐慌のリスクが世界を襲う未曽有の危機にあたり、国民の命と暮らしを守るために、消費税の増税によって得られる税収を今こそ大胆に新型コロナウイルス対策に投入するべきではないだろうか。

広がる不安でスーパーに長い行列

拡大「順調に入荷しています」と買い物客に冷静な行動を呼びかけるスーパーの貼り紙=2020年2月28日、名古屋市
 東京都内のスーパーなどでは、入手困難なマスクや消毒液だけでなく、トイレットペーパーやティッシュペーパーなどを求める長い行列ができた。店員は「トイレットペーパーは国産だから、心配しないでください」と呼びかけるが、買い物客は「それでも心配だから」と行列に並ぶ。「みんながそうやって買うと、なくなっちゃうよ」と店員はこぼすが、どうにもならない。

 このような生活防衛のための日用品買いだめラッシュは、1973年の石油ショックや、2011年の東日本大震災以来のできごとだ。今回は「トイレットペーパーがなくなる」というのは一種のデマだが、人々が不安にかられて買い物に押しかければ、売り場はカラになってしまう。うわさやデマが真実になってしまうわけだ。これは、経済学で「予想の自己実現」、あるいは社会学で「予言の自己成就」という現象である。

 やがてこうなるだろうという予測が大衆の間で成り立つと、大衆が実際にそれに沿った行動を起こすので、予測通りの結果が起きてしまう、ということだ。たとえば、株価が下がるだろうという予測を聞けば、実際に株式を保有している人はすぐに売って損失を免れようとする結果、実際に株価が下がる、というようなことである。

 そういう一種の雪崩現象が起きやすいのは、人々の間で不安が広がっているために、うわさにおびえてしまうときだ。現に、「中国からの輸入が大半を占めてきた使い捨てマスクとは違って、トイレットペーパーなどは国産なので大丈夫」、などと説明されても、人々の不安はおさまらない。政府に対する不信がその不安を増幅させているからである。

 たとえば、マスクについて政府が「3月から月産6億枚にするよう業界に働きかけている」と表明したが、消費者からみれば「国民一人当たり、月に5~6枚しか手にはいらないのか」と、むしろ不信がつのる。そうした不信や不満が、商品不足の不安につながって、長い行列を生んでいるのだ。

 政府に対する不信感の裏には、森友学園・加計学園問題や「桜を見る会」疑惑などさまざまな問題が折り重なり、公文書の隠ぺい・改ざんが行われてきたことも影を落としているのだろう。しかしなんといっても大きいのは、最近の新型コロナ対策の遅れからくる不信感だろう。マスクすら手に入らない苛立ちが、内閣支持率の低下にも反映されているようにみえる。

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筆者

小此木潔

小此木潔(おこのぎ・きよし) 上智大学教授(政策ジャーナリズム論)、元朝日新聞論説委員

上智大学教授。群馬県生まれ。1975年朝日新聞入社。富山、奈良、大阪、ニューヨーク、静岡、東京で記者をしてきた。近年は日本の経済政策や世界金融危機など取材。2009年5月から東京本社論説委員室勤務、11年4月からは編集委員も務め、14年4月から現職。著書に「財政構造改革」「消費税をどうするか」(いずれも岩波新書)、「デフレ論争のABC」(岩波ブックレット)。

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