武田淳(たけだ・あつし) 伊藤忠総研チーフエコノミスト
1966年生まれ。大阪大学工学部応用物理学科卒業。第一勧業銀行に入行。第一勧銀総合研究所、日本経済研究センター、みずほ総合研究所の研究員、みずほ銀行総合コンサルティング部参事役などを歴任。2009年に伊藤忠商事に移り、伊藤忠経済研究所、伊藤忠総研でチーフエコノミストをつとめる。
中国、日本、欧米で異なる経済への影響。懸念される「負の連鎖」は避けられるか
2月末の米国株式市場では、NYダウ平均株価が一時、前日比1000ドル以上の大幅下落となったが、FRBパウエル議長の緊急声明で利下げが示唆されたことから、最終的には300ドル強まで下落幅を縮小した。そして、3月2日の東京市場では、日銀の黒田東彦総裁の緊急談話を受けて日経平均株価は若干反発、その夜のダウ平均株価は各国の中央銀行による政策協調への期待から1000ドルを超える上昇を見せるなど、金融市場は政策対応を催促するかのような動きを見せた。
それに応えるかたちで翌3日、FRBは緊急利下げを実施した。しかし、期待に反してダウ平均株価は785ドルも下落、4日は再び1000ドル超上昇したが、こうした相場の乱高下こそが、新型コロナウィルスの感染拡大という不透明要因による景気の先行き懸念を端的に示している。
実際、新型コロナウィルスの影響は中国からアジア、欧米と波及しつつあり、それが「時間差」をもって、アジアや欧米向けの輸出減などのかたちで中国経済を下押しするという「負の連鎖」が起きる公算が次第に大きくなってきている。
FRBの利下げで株価下落を止められなかったのは、こうした「その先」を見通したためだろう。換言すれば、金融緩和だけでは実体経済の悪化を食い止め、持ち直しに向かわせるには不十分だと金融市場はみたのであろう。
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