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新型コロナの自粛で街が沈む 「炭坑のカナリア」と化した飲食店オーナーの声

シャッター街から再生しつつあった甲府でいま何が起きているのか?

大木貴之 LOCALSTANDARD株式会社代表、 一般社団法人ワインツーリズム代表理事

シャッター街に逆戻りが心配

 不安なことがもう一つあります。

 甲府という街は、リーマンショックの後、地場産業の事業者を利用して、地域での消費は地域内で循環させるという仕組みづくりに取り組んできた結果、少しずつ活気が戻ってきたところでした。今回の状況が長引いて、チェーン店だけが残る元のシャッター街になるようなことにならないかという懸念です。

 私は、小さなカフェをきっかけにシャッター街と化していた地元の中心市街地をなんとかしようと、20年ほど前に東京から甲府にUターンして創業しました。お店だけでは街に変化を起こせないことに気がつき、人の流れをつくろうと、仲間とともに創業当時は全く注目されていなかった地元山梨のワインを使って、「ワインツーリズム(R)」という活動を立ち上げました。「ワインツーリズム」とは、<ものづくり>で停滞している地場産業を地域の<サービス業>が取り込むことによって、地域内の点と点を連携させ、魅力ある持続可能なエリアにしていこうという取り組みです。

ワインツーリズム山梨拡大ワイナリーでの試飲や醸造責任者との交流が人気のワインツーリズム山梨=大木さん撮影

 具体的には、県内はもちろん首都圏などの人たちに山梨のワインを知ってもらい、ブドウ畑に点在するワイナリーを巡る旅をする人を地域が一体となって呼び込むことで、宿泊、飲食、旅行業、お土産、伝統工芸、イベント業など地場のサービス事業者を活用してもらおうというものです。こうした活動や、地方に移住したり、都会から故郷に戻ってきたりするような社会的な風潮もあって、最近では甲府駅周辺を中心に若い経営者たちのお店や事業者が増え、現在では空き店舗の数も少なくなってきていたところでした。

 しかし、こうした10年単位の取り組みを、この新型コロナウイルスの騒動は消し飛ばしてしまうのではないかと危惧しています。

 お店や事業者が増えてきたといっても小さなお店が多く、先が見えない中、業態によっては何カ月も耐えるような体力はありません。この状況は宿泊業、旅行業、イベント業などを直撃し、私の周囲の事業者の中にも3月〜4月の売り上げの見込みがほぼゼロになっているところがあります。

フォーハーツカフェ拡大外国人旅行客も訪れるようになり、活気を取り戻しつつあった甲府駅前=大木さん撮影

節度と理性のある行動を

 こうした新型コロナウイルス騒動の中、リスクを考えながらも生活のためにまちの最前線で日々店頭に立っている自分の姿をふと立ち止まって考えてみると、私は「炭鉱のカナリア」という言葉を思い出してしまいます。

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筆者

大木貴之

大木貴之(おおき・たかゆき) LOCALSTANDARD株式会社代表、 一般社団法人ワインツーリズム代表理事

1971年山梨県生まれ。マーケティング・コンサルタント会社を経て地元山梨へ。2000年に当時シャッター街だった山梨県甲府市に「FourHeartsCafe」を創業。この「場」に集まるイラストレーター、デザイナーや、ワイナリー、行政職員、民間による協働で「ワインツーリズムやまなし」(2013年グッドデザイン・地域づくりデザイン賞受賞)を立ち上げ、山梨にワインを飲む文化と、産地を散策する新たな消費行動を提唱。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科に入学しワインツーリズムを研究。卒業後は、山形、岩手と展開。ワインに限らず地場産業をツーリズムとして編集し直し、地域の日常を持続可能にしていく取り組みを続ける。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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