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政府はマスクと検査を求める国民の声を聞け

メディアも現場の実態を踏まえ解決策の提案を

小此木潔 上智大学教授(政策ジャーナリズム論)、元朝日新聞論説委員

 新型コロナウイルスによる感染症の爆発的拡大の不安が日本列島を覆っている。不安を増幅している要因に政府対応の失敗がある。

 例えば政府が「マスク増産」「検査拡大」と口では言うのに、目の前にはマスクがなく、重症化するまで検査もなかなか受けられそうにない現状に人々は苛立ちを募らせている。ストレスの高まりは、問題解決の展望を示せない政治に対する不信につながり、解決に向けた問題点の指摘や改善提案が十分にはできていないように見えるメディア・ジャーナリズムへの不満にもつながっているようだ。

 こうした状況を突破するには、政治もジャーナリズムも現場の市民や医師の声に耳を傾けることが大切だ。政治家や官僚はメディアが指摘する現実に対して謙虚でなければならず、報道の自由を侵害するような行為に出てはならない。メディアも政権からの情報をうのみにせず、主権者である国民の置かれている状況に目を凝らし、解決策をもっと積極的に提案する姿勢が求められる。

マスクは政府が買い上げ配布を

拡大マスクの入荷がないことを知らせるドラッグストアの貼り紙=2020年3月6日、さいたま市

 スーパーやドラッグストアの店頭で、トイレットペーパーを求める行列はさすがに収まってきたが、一方で「品切れ」や「欠品「入荷未定」の表示が掲げられているのがマスク売り場である。

 少し前までは「おひとり様1個限り」と掲示されていた。少量のマスクが入荷して突然、店頭に並ぶたびに、たちまち売り切れるという状態だったが、それもめったに見られなくなったようだ。店員は「ありません」という説明を繰り返すのに疲れ果て、消費者もあきらめ顔。ため息交じりに売り場を通り過ぎる人も少なくない。時間がたてば政府や業界の努力で「品薄」が緩和され、少しは買えるようになるのではないかという淡い期待は裏切られたままである。

 政府の説明では、業界がフル操業でマスク増産に努めているといい、マスク不足が解消できるかのようにも聞こえる。2月29日の安倍首相の記者会見での説明もそうしたトーンだった。首相は「マスクについてでありますが、増産支援を行っており、3月は1月の生産量の2倍を超える月6億枚以上、供給を確保します」と述べ、「例年の需要を十分に上回る供給を確保できますので、国民の皆様には、どうか冷静な購買活動をお願いしたいと思います」と呼びかけたのである。

 しかし、月に6億枚といっても、国民一人当たり5枚でしかない計算だ。手持ちがほとんどない多くの国民が3月中はマスクなしで過ごすことになりかねないが、政府はそれには打つ手がないということだろうか。「例年の需要を十分に上回る供給を確保」といっても、その程度では済まない現実があるのだから、「冷静な購買活動」をお願いするには無理がある。

 このままでは店頭にマスクが少しぐらい出ても、長い行列か売り場への殺到で目も当てられない混乱が起きかねない。「冷静に」などと呼びかけるよりも、台湾のように政府がマスクを買い上げて、医療機関に優先配布した後は間違いなく平等に供給しますから、並ぶ必要はありません、とでも言うべきだったのではないだろうか。

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筆者

小此木潔

小此木潔(おこのぎ・きよし) 上智大学教授(政策ジャーナリズム論)、元朝日新聞論説委員

上智大学教授。群馬県生まれ。1975年朝日新聞入社。富山、奈良、大阪、ニューヨーク、静岡、東京で記者をしてきた。近年は日本の経済政策や世界金融危機など取材。2009年5月から東京本社論説委員室勤務、11年4月からは編集委員も務め、14年4月から現職。著書に「財政構造改革」「消費税をどうするか」(いずれも岩波新書)、「デフレ論争のABC」(岩波ブックレット)。

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