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英国の対EU交渉力は実はこんなに強い

漁業、自動車、農業……。EUは傲慢な交渉姿勢を改め、英国に譲歩していくしかない

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

 2021年以降のイギリスとEUの関係を決める交渉が開始された。中心はモノ・サービスの貿易や投資の保護などに関する自由貿易協定交渉だが、イギリスの経済水域でのEU諸国の漁獲などの交渉も含まれている。

ジョンソン首相の瀬戸際戦術なのか?

 ジョンソン首相をはじめとするイギリス政府は今年(2020年)中にこの交渉をまとめるとし、EUとの合意で認められている2022年までの延長は要求しないと主張している。

 これは昨年暮れの保守党の選挙公約でもあり、この趣旨は議会が可決したブレグジット法の中にも規定されている。もし2020年中に交渉がまとまらなければ、来年(2021年)から、イギリスとEUは無協定状態となり、相互に通常の関税を適用する事態が実現することになる。

 交渉期限を2020年中と区切ることはイギリスがEUにブラフ(脅し)をかけているようなものであり、EUではジョンソン首相の瀬戸際戦術(brinksmanship)だと評価されている。

 2020年1月末のブレグジット以前は「合意なき離脱」が恐れられた。当時ジョンソン首相は「合意なき離脱」がありうるとEUを脅していた。しかし、このとき懸念された「合意なき離脱」と2021年以降に予想されるイギリスとEUの無協定状態とは同じではない。

 北アイルランド紛争が再燃するのではないかと心配された北アイルランドとアイルランドの間の国境問題は、昨年(2019年)10月のイギリスとEU間の合意で解決されている。これを経て2020年1月末「合意ある離脱」が行われている。2020年にイギリスとEUの交渉が決裂しても、両者の間で関税や通関手続きが復活するだけである。ジョンソン首相の主張は大したブラフではない。

 さらに、瀬戸際戦術とは、北朝鮮がアメリカに対して採る戦術がそう呼ばれているように、通常は、弱い立場の者が強い立場の相手と交渉する際の手段の一つである。実際にも、EU加盟国の首脳の中には、経済力で勝るEUがイギリスを圧倒できるという発言も行われている。27か国が加盟するEUとイギリスでは勝負にならないという余裕の声も聞こえる。EU加盟国だけでなく、イギリスと交渉にあたる欧州委員会の担当者も、イギリスは交渉上の弱者だと考えているようだ。

拡大記者会見するジョンソン英首相=2019年10 月17日、ブリュッセル

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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。20年東京大学公共政策大学院客員教授。「いま蘇る柳田國男の農政改革」「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

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