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英国の対EU交渉力は実はこんなに強い

漁業、自動車、農業……。EUは傲慢な交渉姿勢を改め、英国に譲歩していくしかない

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

アメリカのlevel playing field(共通の土俵論)の主張

 これは、イギリスがEUの市場に関税や割当て(quota)なしで輸出しようとしたいなら、労働や環境に関する規制や政府の補助(企業への課税)などの点で、将来ともEUの規制や政策から逸脱しないように要求するというlevel playing field(共通の土俵論)の主張に、最もよく表れている。

 level playing fieldは、アメリカの交渉者が様々な通商交渉で好んで口にする主張である。この背景には、アメリカの産業が競争で負けるのは、相手が不公平な手段を使っているからであり、そうでなければアメリカが負けるはずがないという、傲慢または身勝手と言える思い込みがある。アメリカがスポーツで勝てないことがあるとすれば、競技場が平ら(level)ではなく、相手方に有利なように傾いているからだと言うのである。

 日本との関係では、日本車がアメリカ市場に輸出されるのに、アメリカ車が日本でさっぱり売れないのは、日本政府の規制や特殊な日本の商慣行によって、アメリカ車が不公平に扱われ排除されているからだというのである。こうした考えが、アメリカの政府や自動車産業の中に根強く存在する。知的水準が高いはずの人さえ、このような意見を持っていることに驚くことがある。

 しかし、日本で、メルセデス、BMW、ボルボ、プジョー、フィアット、ミニなどのヨーロッパ車は多数見かけるのに、フォードやGMなどのアメリカ車はほとんど見かけない。アメリカ人が日本でアメリカ車が売れない理由を知りたいなら、日本に来て通りすがりの日本人にアメリカ車を買いますかと聞くだけでよい。アメリカ車の評判が悪いから、だれも買おうとしないだけだ。

傲慢なEUの交渉態度

 しかし、このようなアメリカでも、労働や環境に関する国際規律よりも緩やかな規制を採用することによって、アメリカ産業よりも有利な競争条件を獲得してはならないと主張するのがせいぜいで、自国の規制やそれと同等の規制を交渉相手国に要求したことはなかったはずである。欧州委員会がイギリスに要求していることを聞くと、いつからEUはアメリカよりも傲慢となったのかと思われる。

 地球温暖化問題について、EUが将来炭素税を採用したり、その排出権取引制度を変更したりすれば、イギリスも同じような政策を採用しなければならないのだろうか? 

 将来ともEUのルールや政策を採用し続けるよう主権国家に要求することはできない。EUがこれまで自由貿易協定を結んできた日本やカナダには要求しないで、イギリスに要求するのは不当である。そのような要求は、イギリスをEUの属国扱いしているようなものである。

拡大Ivan Marc/Shutterstock.com

 国際協定・条約の基本的な考え方は、相互に同じ権利・義務を認め合うという相互主義である。相互主義の観点からは、逆にEUがイギリスよりも規制を緩和することも認められないことになるが、それでもよいのか?

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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。20年東京大学公共政策大学院客員教授。「いま蘇る柳田國男の農政改革」「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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