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コロナショックで「中央銀行バブルの崩壊」が始まった

世界の金融市場はバブル化していた。コロナ禍が終息しても金融市場は戻らない

原真人 朝日新聞 編集委員

 世界を襲うコロナウイルス禍、そして、それに端を発した世界金融ショック。しばらく世界はこの二つのショックに振り回されることになりそうだ。

 両者の関係をどう読み解けばいいだろうか。

 二つの説明方法があると思う。「いいニュース」に焦点をあてるか。あるいは「悪いニュース」も包み隠さず伝えるか、だ。

 まずはいいニュースのほうから始めたい。

 コロナウイルスの全容はまだ判明していないものの、どうやらエボラ出血熱や重症急性呼吸器症候群(SARS)など近年発生した他の疫病ほど致死率が高くないらしい。

 感染力が強いので厄介ではあるが、感染急拡大する深刻な事態は一過性のものと考えられる。一定期間(それがどのくらい長引くのかわからないという問題は依然残るが……)がたてば、必ず社会問題としてのコロナショックは終息するだろう。だから、現状のようにコンサートやイベントを中止し、全国の小中高校を休校にし、企業にはテレワークの拡大を求めるような、そんな異常事態は早晩おさまるだろうと思われる。

 しばらくのあいだは「巣ごもり消費」どころか「冬眠消費」のような状態が続き、消費は冷え込むだろうが、感染拡大がおさまれば、また消費の現場も人々のライフスタイルもいつもの風景に戻っていくだろう。

 次に悪いニュースを説明したい。それは疫病とは関係ない問題、金融ショックに固有の問題である。

コロナ禍が終息しても金融市場は戻らない

 ニュース番組では、株価暴落はコロナショックが引き起こした問題だと報じられている。だから新型肺炎の流行が終われば、そして巣ごもり消費が元に戻れば、再び活況の金融市場が立ち戻ってくるという見方が大勢のようだ。

 安倍政権も、そして多くの企業や投資家たちもそう期待しているにちがいない。

 だが残念ながら、その見方はちがうと思う。コロナショックは一つのきっかけにすぎなかったのではないか。

 もともと世界の金融市場はバブル化していた。いつ破裂してもおかしくない状態だった。それがたまたま新型肺炎問題の勃発によって、それが引き金となって破裂し始めただけのことである。

 だから、コロナショックが終息したとしても、金融市場がすぐに穏やかになって力強い相場が戻ってくるなどという甘い期待はしないほうがいい。

Hans RW Goksoyr/Shutterstock.com

総崩れの金融マーケット

 それにしても、ここ半月ほどのマーケットの展開はまさにジェットコースターのようだった。

 米国株式市場は2月上旬までニューヨーク市場も、新興企業専門のナスダック市場も、どちらも史上最高値を更新する好調さだった。それが2月下旬になると一転して崩れた。24日にはダウ相場が2年ぶりの安値をつけ、その後も連日下げ始めた。

 きっかけはコロナウイルス禍だった。中国を襲ったこの疫病は米中貿易に深刻な影響があると警戒されてはいたものの、当初は日本や韓国を含めた「アジア問題」とみなされていた。

 ところがイタリアでの深刻な感染拡大が伝わると、「パンデミック」(感染の世界的拡大)の可能性が急に意識されるようになり、欧米の投資家心理が急速に冷えたのである。

 ダウ相場は2月最終週だけで3600ドル近く下げ、史上最大の下落幅を記録した。すると、たまらず米国の中央銀行であるFRB(米連邦準備制度理事会)のパウエル議長は「適切な行動をとる」と談話を出した。

 主要7カ国(G7)の財務相・中央銀行総裁は3月3日夜に急遽、電話会合を開き、「すべての適切な手段を用いる」という共同声明を発表した。動揺する金融市場を落ち着かせるためにメッセージを出す必要に迫られたのだ。

 その直後、FRBは共同声明の実践と言わんばかりに緊急利下げを発表。政策金利の誘導目標を0.5%幅引き下げ、「年1.00~1.25%」とした。

 FRBの政策の基本的な変更幅は通常なら0.25%幅ずつだ。今回は2回分の0.5%幅を一気に下げる大盤振る舞いだった。それだけFRBの危機感が強いことがうかがえる。

 そんな思い切った金融緩和にもかかわらず、金融市場の動揺は止まっていない。各国の株式市場はその後も乱高下を繰り返している。

 3月9日にはダウ平均株価は史上最大の2000ドル超の下げ幅を記録。リスクマネーは逃げ場を求めて、比較的安全な米国債に集まっている。米国債の価格は急騰(その結果、長期金利は急低下)し、10年金利は3日、米国で初めて1%を割った。9日には一時、史上最低の0.3%をつけた。

katjen/Shutterstock.com

「日本化」した欧米経済

 これは米国市場の大きな変化を物語っている。

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