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トランプ再選の命運を握るコロナウイルス

トランプ政権3年間の株価上昇は一気に吹き飛んだ。11月の大統領選時点でどうなるか

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

トランプにとって「雇用」と「株価」がすべて

 トランプ大統領は、なぜコロナウイルスの影響を否定するような発言をしてきたのだろうか?

 それは、経済に対する影響を心配したためである。いくら大統領が否定しても感染の拡大を押さえられるはずがないが、経済への影響を恐れるトランプは、コロナウイルスの影響は深刻ではないと思い込みたかったし、それを発信したかったのだろう。

 経済指標の中でも、再選に向けての彼の最大のよりどころは、雇用と株価だった。

 これまでのところ、失業率は低下傾向にあり、現在3.5%と50年間で最低の水準である。トランプにとって再選のカギは、前回の大統領選挙で8%しか獲得できなかった黒人票の上乗せである。このため、トランプ政権によって、黒人の雇用は拡大し、過去最低の黒人失業率だと主張してきた。確かに、これまでは順調だった。

 しかし、コロナウイルスで状況は一変した。

 日米などの先進国では農業や製造業の地位が低下し、サービス産業などの第三次産業がGDPの8割程度を占めている。さらに、機械化が進み労働の必要性が減少している製造業に比べ、対人サービスが基本のサービス産業では雇用・労働の比重が高い。

 下の表が示すように、アメリカにおいて、GDPでは12%のシェアを持つ製造業は雇用面では8%のシェアしかない。逆に、医療などの保健衛生・社会事業はGDPでは8%のシェアなのに雇用面では13%のシェア、GDPでは6%の小売業は雇用面では10%、GDPでは3%の宿泊(ホテル)・飲食サービス業は雇用面では9%、GDPでは2%のその他のサービスが雇用では5%のシェアとなっている。

拡大出典:U.S.BEA(アメリカ商務省経済分析局)"Gross Domestic Product by Industry"より筆者作成

 製造業と比べたサービス産業の特徴は、生産と消費が同時に行われるということである。工場で作られた車は自宅で利用する。しかし、銀座の有名なフランスレストランの料理は作られている場所に行かなければ食べられない。テレビでもスポーツ観戦はできるが、臨場感を楽しみたい人は競技場に足を運ぶ。ニューヨークのブロードウェイに行かないと、ブロードウェーミュージカルは見られない。祇園に行かないと舞妓さんの踊りは見られない。

 このように、サービス産業は基本的には人が集まるところで成立し成長する。しかし、コロナウイルス感染を防止するためには、人の集まりを規制・自粛しなければならない。これによって影響を受けるのは、製造業というよりはサービス産業となる。しかも、そこでは多くの人が雇用されている。サービス産業が打撃を受ければ、レイオフ(一時解雇)が増加し、失業率は上昇する。

 感染者が1万8000人、死者が1266人となった(3月14日現在)イタリアは、薬局と食料品店以外のすべての店を閉鎖した。米国でも、カリフォルニア州、ワシントン州、ニューヨーク州、メリーランド州、ペンシルベニア州、ワシントンDCなどがすでに非常事態宣言を出している。トランプ大統領より州知事の方が、危機感が強い。

 ニューヨーク州知事は500人以上集まる場所の閉鎖を命じた。これでブロードウェーミュージカルは見られなくなる。コンサートや見本市などのイベントもプロバスケットボールやプロホッケーなどのスポーツも中止された。アメリカのディズニーランドは3月14日から閉鎖された。

 アメリカで、ショービジネスやスポーツ産業は一大産業であり、これに関連して多数の人が働いている。トランプは3月14日から30日間イギリスを除くヨーロッパ26か国からの渡航を禁止した(16日からイギリスも渡航禁止対象に追加)。航空産業だけでなくホテルなど観光産業にとっては大きな打撃となる。

 日本でも海外旅行客が減少した観光業や百貨店などは大きな影響を受けている。商業施設が閉鎖されれば、自動車など製造業の生産物も売れなくなる。

 雇用は減少する。もう、トランプは雇用拡大という実績を支持者に訴えることが難しくなるだろう。

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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。20年東京大学公共政策大学院客員教授。「いま蘇る柳田國男の農政改革」「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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