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トランプ再選の命運を握るコロナウイルス

トランプ政権3年間の株価上昇は一気に吹き飛んだ。11月の大統領選時点でどうなるか

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

 中国の武漢から端を発したコロナウイルスは、瞬く間に、イタリア、韓国、イランなど中国と関係の深い国を中心に伝播し、さらに世界中に拡大した。3月14日現在で感染者数は約13万人、死亡者は5000人となっており、増大する一方である。とうとうWHOの事務局長はパンデミックを宣言した。

 イタリアと接するドイツのメルケル首相は、ワクチンなどもない状況では、ドイツの感染者が人口の60~70%になるのではないかという専門家の見方を紹介した。

 2週間前は、米国、特にトランプ大統領は国内の感染者数は少なく(2月28日で60人)、対岸の火事だと思っていたようだ。トランプ大統領の発言から、我々は米国が日本人の入国を拒否するのではないかと心配していた。

 あるカンファレンスに出席するため、3月16日から米国訪問を予定していた私は、9日にコロナウイルスによって入国拒否または2週間の抑留の恐れがあるので出席できないと主催者に連絡した。ところが、その翌日にカンファレンス自体が中止されるという連絡が入った。

 この2週間のうちに米国では感染が急速に拡大し、感染者は2200人、死亡者も49人となった。検査体制の違いや不備があるので、感染者数の国際比較は適当でないが、比較してもよいと思われる死亡者について、米国は日本の倍となってしまった。日本の対応を批判するどころか、米国の方が大変な事態になってしまったのである。このままだと、日本が米国からの渡航を制限しなければならないかもしれない。

トランプの不可解な行動

 しかも、このような拡大を招いた責任は、トランプ政権にあるという見方が広がっている。

拡大ホワイトハウスで会見するトランプ米大統領=2020年3月9日、ワシントン

 まずトランプ大統領は2月26日、インディアナ州知事時代にHIVウイルスの感染を拡大させた過去があるペンス副大統領を、新型コロナウイルスの対策チームの責任者に任命した。当時ペンスは保健担当者が注射針の交換を提案したのに、「家に帰って神に祈る」と答えて迅速な対応をせず、感染を広げたと批判されている。ペンスは熱心なキリスト教信者ではあるが、科学的な専門家ではない。

 トランプはコロナウイルスに対しては極めてうまくコントロールしており心配することはないのだとツイッターで繰り返し発信してきた。感染しても危険な症状にはならないと主張し、職場に行ってもよいのだとさえツイートしていた。コロナウイルスが大変な事態を招くかもしれないというのは、メディアのフェイクニュースだと、メディアを悪者にしてきた。

 インフルエンザに比べると死亡者数は少ないと主張していたが、これはコロナウイルス感染の初期の段階のものであり、今後感染が進んでいくとどうなるかわからない。米国政府内でコロナウイルス対策の責任者である国立アレルギー感染症研究所のファウチ所長は、コロナウイルスは季節性インフルエンザの10倍の致死率だと述べている。

 すぐにでもワクチンを開発できると述べたトランプの発言を、ファウチ所長は一年から一年半くらいはかかるとその場で即座に否定した。乗客を下船させたクルーズ船の対応はトランプの主張と逆になった。

 さすがのトランプも科学者の言うことは否定できないようだ。このように、政権内が混乱している場面が公衆の面前にさらされている。これは珍しいことだ。

 トランプが検査器具は十分あると発言する一方で、死亡者を多数出したワシントン州の知事は検査器具が足りないことが蔓延を招いたと批判している。実際にも感染を疑っている人が検査を受けられないことが報道され、ファウチ所長は議会証言で外国に比べ十分な検査が行われていないと誤りを認めている。

 また、これほどまで感染者が増加した今でも、ファウチ所長は大規模集会の自粛を要求し、民主党の大統領候補者、バイデンやサンダースは大規模な支持者集会を中止したのに、トランプ大統領は再選に向けた集会を開催し続けると主張している。

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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。20年東京大学公共政策大学院客員教授。「いま蘇る柳田國男の農政改革」「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

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