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新型コロナ・ショックと戦う医療・経済政策を

検査・治療や休業補償をけちるな

小此木潔 上智大学教授(政策ジャーナリズム論)、元朝日新聞論説委員

 新型コロナウイルスによる感染症のグローバルな拡大は、世界保健機構(WHO)が「パンデミック」と認定したのに合わせたかのように世界の株価暴落を呼んだ。いわば「新型コロナ・ショック」である。

 感染の広がりによって都市や工場の封鎖や休止が増えれば、世界の生産は縮小し、企業の収益悪化は避けられない。ほとんどの株価は下がるから今のうちに売って利益を確保しようとする投資家が一気に増え、売りが売りを呼ぶ展開になるのは避けられないことだ。ワクチンができるまでに時間もかかるので感染の収束も見通せない以上、2008年のリーマン・ショックを上回る世界危機になることは確実である。

医療と人命・暮らし最優先の大胆な対策が不可欠

 この危機と戦うには、経済の崩壊を防ぐさまざまな政策が必要だが、まず何よりも長期戦に耐えられる医療体制の構築が最優先されなければならない。人々が検査と治療を受けられるようにして命と暮らしを守ることができなければ経済崩壊も防げないからである。

 同時に、無理に仕事に出なくてもすむような休業補償を広範囲に行うことで、人々と企業を支えることが重要だ。危機を乗り越えるためのため、巨額の財政支出を思い切っておこなうことが政府と自治体に問われている。金額をけちったり、ためらったりすれば、その分だけ人命が失われ、経済の打撃も深く長いものになってしまうだろう。知恵と決断と勇気が求められる局面なのだ。

 政権内部では消費税の一時的な引き下げなど、さまざまな方策が検討されているに違いない。本来はリーマン・ショック対策を上回る数十兆円規模の財政支出がすでに開始されているべきところであり、ここでも後手に回っているのは残念だが、遅れを取り戻す意味でも医療や休業補償を軸に大胆な政策が求められる。

 本稿では、最近の米国の動向を参照しつつ、筆者が新聞記者時代に経験したリーマン・ショックと比較しながら、危機を克服する政策のありようを考えてみたい。

NY株暴落に歯止めをかけた「検査拡大」

拡大ホワイトハウスで国家非常事態を宣言するトランプ大統領=2020年3月13日、ワシントン

 3月13日深夜(日本時間。米東部時間では13日朝)、ニューヨーク・タイムズの読者向けニュースメールで「Breaking News」が流れた。1987年のブラック・マンデーの株価大暴落以降で最悪の暴落を前日に記録していたニューヨーク市場で株価が同日朝の取引開始から反発した、と告げる内容。株価が勢いよく上がった理由は「トランプ政権がウイルス検査の迅速化へ踏み出した」ので、買い注文が増えたというものだった。

 この日の午後、ホワイトハウスの庭であるローズガーデンにペンス副大統領や政権幹部、民間企業の代表らを伴って登場したトランプ大統領は、「国家非常事態」(National Emergency)を宣言。新型コロナ感染症との戦いに打ち勝つため「連邦政府の総力を挙げる」と述べるとともに、新型コロナウイルス検査拡大の方法などを語った(ホワイトハウスHPから)。

 その財政的な裏付けとして、最大500億ドル(約5兆4000億円)の連邦資金を州や地域機関が使えるようにしたことを明らかにした。この連邦資金は、新型コロナウイルス検査や治療の体制強化に使われる。

 具体的には、「1か月以内に500万人分の検査ができるようにする」体制を整備するために、スイスの大手製薬会社ロシュと契約して検査システムを全米に配備する。また、大型商業施設の駐車場を利用して、車に乗ったまま検体を採取する「ドライブスルー」方式の検査を各地で増やすと表明した。

 さらに、医療施設の病床数の拡充や遠隔診断に力を注ぐほか、学生ローンの利払い免除など国民負担の肩代わりを表明した。

 こうした対策を受けて、13日のダウ平均株価の終値は、前日比1900ドル余りも急反発。その前日には2300ドル余りの暴落を記録していた市場は、いったん落ち着きを取り戻したのだった。

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筆者

小此木潔

小此木潔(おこのぎ・きよし) 上智大学教授(政策ジャーナリズム論)、元朝日新聞論説委員

上智大学教授。群馬県生まれ。1975年朝日新聞入社。富山、奈良、大阪、ニューヨーク、静岡、東京で記者をしてきた。近年は日本の経済政策や世界金融危機など取材。2009年5月から東京本社論説委員室勤務、11年4月からは編集委員も務め、14年4月から現職。著書に「財政構造改革」「消費税をどうするか」(いずれも岩波新書)、「デフレ論争のABC」(岩波ブックレット)。

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