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「感染爆発の重大局面」は長期戦 集団免疫の獲得による終息への道のり始まる

元東京都福祉保健局技監が小池都知事会見の新型コロナ自粛要請を読み解く

岩崎賢一 朝日新聞社 メディアデザインセンター エディター兼プランナー

 新型コロナウイルスの感染者の急増でオーバーシュート(感染爆発)の可能性が高まり、東京都の小池百合子知事は25日夜、事実上の「緊急事態宣言」とも言える自粛要請を表明しました。26日には安倍晋三首相と会談して協力を要請。「フェーズ」の転換は明らかです。

 「感染爆発の重大局面」はいつまで続くのか。イタリアで起きている「医療崩壊」を食い止めつつ、どうやって「終息」させるのか――。

 2009年の新型インフルエンザのパンデミック(世界的大流行)の際、東京都福祉保健局技監として日本の対応を指揮した桜山豊夫・東京都結核予防会理事長(医師)に読み解いてもらいました。

感染爆発の重大局面いつまで拡大緊急記者会見で「感染爆発 重大局面」と示す東京都の小池百合子知事=2020年3月25日午後8時17分、東京都庁、田辺拓也撮影

感染者が倍々に増えていくのか注視される東京

 小池知事が25日夜、都民や東京都で働いたり学んだりしている人たちに要請したのは、「換気の悪い密閉空間」、「多くの人の密集する場所」、「近距離での密接した会話」を避ける行動を取ってほしいということでした。

 さらに、一人一人の予防行動の大切さを訴え、自粛を要請する以下の具体的項目を挙げています。

  • 屋内・屋外を問わずイベント等への参加を控える
  • ライブハウスなどについても自粛をお願いする
  • 少人数でも飲食を伴う集まりはできるだけ控える
  • 平日でも可能な限り自宅でのリモートワークに切り替える
  • 夜間の外出は控える
  • 週末は不要な外出を控える
  • 帰国者から感染が確認される事例が大変増えているので、帰国後14日間は外出を自粛する
  • 大学は授業の開始を後ろ倒しにするなど効果のある対策をとる

 緊急会見をするというニュース速報がインターネットで流れると、街のドラッグストアやスーパーマーケットに、食料品を求める人が押し寄せました。都の近県ではトイレットペーパーの不足は解消していますが、都内では在庫切れのところも少なくないです。

 安倍晋三首相は、2月24日に示された専門家会議の見解「1、2週間が瀬戸際」を根拠に26日、2週間の大規模なイベントの自粛を要請し、全国の小中高校の「一斉休校」も指示しました。それから2週間が過ぎ、オーバーシュートも起きなかったことから、いったん都内の空気が緩んだ後、25日に東京都の感染者が41人と急増し、空気が一変しました。上記のような、“パニック”ともいえる状況を呈しています。

 こうした状況に私たちはどう対応したらいいのでしょうか。

 参考になるのは、新型インフルエンザの大流行の際にとられた対策です。2002年から2003年にかけてアウトブレークしたSARS(重症急性呼吸器症候群)発生時に八王子保健所長、2009年の新型インフルエンザ発生時には東京都福祉保健局技監(医系トップ)として、東京の「医療崩壊」を防ぐべく尽力した桜山さんに26日午前、緊急インタビューをしました。

感染爆発の重大局面いつまで拡大インタビューに答える桜山豊夫さん

対策の基本は「医療崩壊」を起こさないシフト

――小池知事が25日午後8時から緊急会見をして、現状を「感染爆発の重大局面」として、「事実上の緊急事態宣言」に近い細かな自粛要請を出しました。知事から都民へのメッセージをどう読み解きますか。

 オーバーシュート(感染爆発)を防ぐ、急速な感染拡大を防ぐ、という意味だと思います。そのために、どのような予防対策を取るべきかを具体的に示されました。

 まず、今回の新型コロナウイルス感染症の特性を見てみましょう。

  • 症状があまりない時期から感染力を持っている
  • 若い人を中心に感染者の8割程度は軽症や無症状
  • 高齢者や基礎疾患を持つ人は重症にもなる
  • 致死率は、SARS(重症急性呼吸器症候群)ほどではないがさほど低くはない

 ここから浮かぶのは、「水際で止める」「完全に封じ込める」ことがかなり難しい疾患であるということです。ただ、その一方で、重症者であっても、医療崩壊が起こらなければかなりの程度、救命されているのも事実です。とすれば、対策の基本は明らかで、医療崩壊を起こさないことに尽きます。

 SARSは、新型コロナウイルス感染症に比べて感染力は弱く、重症者が多い疾患でした。これは、ある意味、封じ込めがしやすい疾患だったと思います。残念ながら、新型コロナウイルスは、すでに世界中に広がっています。

 ウイルスの特性の一つに、無症状でも感染するということが挙げられます。一般論ですが、最低限3割、だいたい6~7割の人が感染すれば、「集団免疫」が得られ、その後は普通の感染症になっていくでしょう。裏を返せば、それまでは感染者が発生し続けるということです。これからは持続可能な予防行動を取らなければいけません。

 2月24日、政府の専門家会議は会見で、「1~2週間が山場」としました。感染爆発が起これば、そこが山場になります。つまり、イタリアはいま山場を迎えていると言えます。一方、日本について言えば、感染爆発が起こらなければ、小池知事が言っていた「重大局面」がずっと続いていくことになります。

 自粛要請でとりあえず感染爆発を抑えられても、外国から日本に入国してくる人たちはいます。永続的に外国への渡航を止めることはできません。要するに、日本は感染を抑えているがために、なかなか終息に至らないともいえます。とはいえ、感染爆発を抑えなければ、医療崩壊を招いてしまいます。とても難しい局面なのです。

――医療崩壊を防ぐために、いま必要なことは何ですか。

 最も重要なのは、重症者の入院確保です。新型コロナウイルス感染症は、指定感染症のため、症状が治まってもPCR検査で2回陰性にならないと退院させられません。このフェーズを転換し、入院する感染者は重症者中心にし、無症状や症状が改善した人には自宅待機を求め、保健所が訪問や電話でチェックしていくような態勢への切り替えが必要でしょう。

 もう一つは、患者数を増やさずに社会機能を維持することを考えれば、25日夜に小池知事が緊急会見で求めたような、平日の在宅勤務や夜間の外出自粛をいつまでも続けることにも無理があります。結局、小池知事が緊急会見の冒頭で言っていたように、個人衛生の積み重ねで感染を防ぐ、つまり一人一人の努力の積み重ねが大切になります。100%確実な方法はないのです。

 新型コロナウイルスは接触感染が多いと推定されるので、手洗いの励行は重要です。流水とせっけんで30秒ほどかけて手洗いをすることをおすすめします。マスクはエビデンスがないとされていますが、みんながマスクを付けていれば、無症状の感染者からの感染リスクを何割か下げることができるでしょう。新規感染者数のグラフの曲線を緩やかにするには、個人衛生を積み重ねるしかないのです。

感染爆発の重大局面いつまで拡大イタリア北部のベルガモで防護服を着用して感染者の自宅を訪れた医療スタッフ=AP


筆者

岩崎賢一

岩崎賢一(いわさき けんいち) 朝日新聞社 メディアデザインセンター エディター兼プランナー

1990年朝日新聞社入社。くらし編集部、政治部、社会部、生活部、医療グループ、科学医療部などで医療や暮らしを中心に様々なテーマを生活者の視点から取材。テレビ局ディレクター、アピタル編集、連載「患者を生きる」担当、オピニオン編集部「論座」編集を担当を経て、2020年4月からメディアデザインセンターのバーティカルメディア・エディター、2022年4月からweb「なかまぁる」編集部。『プロメテウスの罠~病院、奮戦す』『地域医療ビジョン/地域医療計画ガイドライン』(分担執筆)。 withnewsにも執筆中。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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