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「和牛商品券」という愚策が提案されてしまった理由

現在の農政劣化を象徴する前例なき政策提案。どうしてこんなことに……

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

 安倍首相は3月15日の記者会見で、コロナウイルス対策として「日本経済を再び確かな成長軌道へと戻し、皆さんの活気あふれる笑顔を取り戻すため、一気呵成(いっきかせい)に、これまでにない発想で、思い切った措置を講じてまいります」、24日の参院財政金融委員会でも「前例にとらわれず一気呵成に思い切った措置を講じて強大な経済政策を実施する」と述べている。その政策の内容は十分に伝わってこないが、いつものように、威勢の良い言葉である。

自民党の「和牛商品券」提案

 これに意を強くしたのだろう。自民党農林族議員から、“これまでにない発想で”、“前例にとらわれ” ない “思い切った措置” として、国産牛肉の商品券を交付することが提案された。

 自民党は3月26日、農林・食糧戦略調査会、農林部会合同会議を開き、新型コロナウイルスに関する経済対策案を審議し、承認した。その中で、「インバウンド需要の減少などによる和牛需要の大幅な低下に対応するため、「お肉券」など小中学生・高齢者などの消費者による国産牛の購入を促進するための取組み(中略)を支援する」ことが提案されている(3月27日付け食品産業新聞社)。

 これに対して、ネット上では多数の批判が出されているという。

拡大show999/Shutterstock.com

 発端は3月25日、JA農協の機関紙である日本農業新聞が、和牛消費のための商品券を自民党が検討していると報じたことだった。しかし、自民党農林族議員は、そのような批判は承知しているとしたうえで、26日にこの提案を決定している。

 日本農業新聞の記事を読んだとき、「今の自民党農林族議員ならこんな提案をするだろうな」と受け止めたが、さすがに、特定の業界のために、しかも普通の消費者が日常的には購入しない和牛の需要喚起のための商品券を配ることは、国民一般の感情にそぐわなかったのだろう。

 こうしたネット上の非難の他に、この “前例のない思い切った措置” については、いくつか問題点がある。

 この小論では、これらの問題点を指摘するともに、なぜ以前だと考えられないような(その意味でも前例のない)提案が行われてしまうのか、検討することとしたい。

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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。20年東京大学公共政策大学院客員教授。「いま蘇る柳田國男の農政改革」「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

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