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新型コロナが社会を変える~オンライン授業、テレワーク。主導権は若い世代へ

コロナが終息してもこの流れは元に戻らない

木代泰之 経済・科学ジャーナリスト

 新型コロナウイルスの感染拡大に備え、4月から「オンライン遠隔授業」に踏み切る大学が相次いでいる。このまま感染が拡大すれば、学生や教師の登校が困難になる事態が予想されるためだ。これまで文科省が再三促しても動かなかった大学は、システムの整備や学生への周知を急いでいる。

 一方、企業も社員に在宅テレワークを義務付けている。その数は少なくとも数百万人を下らない。オフィス街のビルはがらんとしているが、その分、ネット上で無数の会議や商談が開かれている。

 経済社会の景色はこの1か月でずいぶん違うものになった。

 これを機に大学や企業、行政、診療、地域社会などでネット活用が深まり、それと共にデジタルに弱い中高年世代から、スキルを使いこなす若い世代への主導権の委譲が進む、と筆者は予測する。

3月2日から始まった上海市のオンライン授業。ケーブルテレビの画面から=藤田康介さん提供。中国ではオンライン教育会社がコロナ感染を機に劇的に急成長している。

「授業を止めないことが社会的責任」

 名古屋商科大学は3月23日、新学期の授業(約300)を全てオンライン遠隔授業に切り換えると発表した。

 「授業開始時期の繰り下げも検討したが、先行き不透明な中にあっても授業を止めないことが高等教育機関の社会的責任。世界の多くのビジネススクールもすでに切り替えを表明している」

 これが急な決断の理由だという。

名古屋商科大学のオンライン遠隔授業の風景=同大学HPより
 授業は録画配信ではなく、全て「双方向ライブ」。教員は研究室や教室で講義を行い、学生は自宅でノートパソコンを使って授業に参加する。討議型の授業、教科書を使う授業、ネイティブ教員の語学授業もすべてオンラインで行う。

 教師は学生一人一人の表情をモニターで見ながら講義をする。同大学は以前から新入生全員にノートパソコンを無償譲渡しており、「ネット利用にはノウハウの蓄積がある」という。

 国公立では、群馬大学、東京工業大学、秋田の国際教養大学などが、新学期の授業を全てオンライン遠隔授業に切り替える。群馬大学は「新入生は全国から集まる。手探りで試行錯誤の部分もあるが、学内で感染者を出すわけにはいかない」と説明する。

「感染が収まっても元には戻らない」

 文科省は長年にわたって、だれもが同じ授業を受けられるオンライン遠隔授業のための予算を付けてきた。「留学生や社会人、身障者など多様なニーズに応える必要がある」「都市と地方の教育ギャップを埋める必要がある」などが理由だが、大学の対応は鈍かった。

 そこへ新型コロナ感染拡大が起き、各大学は「外出自粛」に備えて、慌ただしくオンライン遠隔授業に踏み切っている。近年、Web技術の進化によって、システムを低コストで構築しやすくなっていることも後押しになった。

 オンライン遠隔授業は4~7月に限定している大学が多いが、東工大大学院の細谷暁夫・名誉教授は「オンライン遠隔授業はやり方次第で効率が良い。若い世代は新技術に好奇心が旺盛だから、感染が収まっても、授業がすべて元の対面方式に戻ることはないだろう」と予測する。

中高年から若い世代へ主導権が移る

 名古屋商科大学の栗本博行教授によれば、オンライン遠隔授業の成功のポイントは、①討論型の授業を行うこと、②指示を明確に出すこと、③だらだら話さないこと、④プレゼン資料を事前に提示しないことだという。

 つまり、オンライン遠隔授業では学生の緊張感が低下しがちなので、教員はモニターで学生を観察しながら、スキルを駆使してテキパキと場を仕切る力量が求められる。旧態依然とした授業では学生はついて来ないというのだ。

 「コロナ後」の世の中では(いつになるかは分からないが)、社会の根底部分で必ず大きな変化が起きる。ネット活用が日常の隅々に入り込む結果、スキルを使いこなしてリーダーシップを発揮する若い世代が社会のあちこちで台頭し、発言権を強めていくだろう。

ITに疎い上司は権限を失う

 一方、企業はいまテレワーク用システムの導入を急いでいる。売れ筋のZOOM(ズーム)やTEAMS(チームズ)の他に、IT系各社が提供する無償支援プログラムが多数ある。これまでイマイチだった普及状況が一変した。

ZOOMを使った出欠確認の様子。時間に合わせ多くの生徒たちがPC前に集まった=2020年3月13日、名古屋市中川区

 3月からテレワークに移行した大手IT企業の40代社員に話を聞いた。 

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