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緊急事態宣言の前に「コロナ難民」? 医療体制の転換が不可欠。忍び寄る「医療崩壊」のプロセス

国立国際医療研究センターの大曲貴夫・国際感染症センター長に聞く

岩崎賢一 朝日新聞社 メディアデザインセンター エディター兼プランナー

「感染症指定医療機関の人たちが診るものでしょ」という医療関係者も

――大曲さんは、「すでに流行している地域では“突貫工事”で対策が必要です。まだ流行していない地域は時間があるだけ幸いです。今から準備することを強くお勧めします。クラスター(集団感染)はいきなり来ます」という警鐘も出しています。突貫工事で対策が必要ということは、爆発的な感染拡大が起こる前の準備が、日本ではまだできていないという危惧からでしょうか。

 東京都内には10万床を越える既存の病床があります(編集部注:2019年4月1日現在10万6790床、感染症病床124床、結核病床412床、精神病床21943床)。患者を入院させるスペースはあるわけです。

 ただ、実際に患者を診るためには、誰が診るか担当を決めたり、必要な物品をそろえたり、どの病棟を使うのかを決めたり、患者をどうやって病室に運ぶかという動線を定めたり、感染者と接した医療従事者の体調が悪くなったときにどうするのか準備をしたりします。2009年に流行した新型インフルエンザ対策を準用できますが、新型コロナウイルス患者の増加ぶりを考えると、特に東京では各医療機関がすぐに整えないと間に合いません。

 新型コロナウイルスとの闘いが日本国内で始まって3カ月近くになりますが、感染症指定医療機関かどうかで、医療従事者の意識に差があるのではないかと思います。

 最近も、「ああいうのは感染症指定医療機関の人たちが診るものでしょ」「なんでうちが診ないといけないの?」というような話がかなりなされていることを知りました。「コロナの患者らしき人がいたら全部送るから。そちらが大変になったらそちらが診ているコロナ患者以外の患者を送ってくれ」というニュアンスの話をされる人もいます。

 明らかになってきた新型コロナウイルスの特性を考えれば、どの医療機関も逃れることはできないのですが、そういう病院の準備が間に合うのか大変心配です。

 患者は病院を選ばずに受診してきたり、救急搬送されてきたりします。医療従事者も人間なので、「コロナ患者を診ない」と言っても、医療機関のスタッフが「3密」のようなところに行けば意図的でなくても感染をもらってきてしまうことがあるわけです。流行期において「うちは診ない」ということはありえないのです。

軽症の患者は病院以外の場所で療養してもらうように転換を

――流行前に準備期間が長くあった新型インフルエンザ対策を日本の医療関係者や行政機関は経験しています。その後も継続的にトレーニングされていれば、そのスキームや準備を準用すればいいと思います。しかし、爆発的な感染拡大があったとき心配なのは、既存の医療機関だけで済むのかという問題です。

 仮設の医療施設の開設や軽症者を経過観察していく施設、遺体安置所など新型インフルエンザ対策では事前に議論された項目がいくつもあります。今回、緊急事態宣言を出すということは、医療のフェーズを転換し、仮設の医療施設等の準備・開設に入るということが最重要課題だと思います。いま、「入院ベッドはある」という話でしたが、その規模を教えてください。

 東京都の病床は、全体では一般病床が約10万床あります。東京都の推計でいくと、流行期で最大2万人の患者が同時期に出る見込みです。WHO(世界保健機関)のレポートに基づくと、そのうち約20%の4000人が重症患者になると推計できます。その数字をもとに、東京都は4000床を確保しないといけないと言っています。重症や中等症の患者を診るために必要なベッド数は、既存の一般病床数に比べたら大幅に少ない数です。

 指定感染症である現在のオペレーションだと、重症の人も軽い人もほぼ無症状の人も、PCR検査で陽性の人は入院して隔離が必要だということになります。退院する人も多くいますが、どんどん入院患者が増えていきます。どこまで切り替えの時期を待つかは議論が必要ですが、重症の患者を入院させるために必要な病床数が4000床なのに、いずれ陽性の感染者全体の入院者数が4000人に迫ってきます。軽症の人、ほぼ症状がない人も入院患者にしていて4000人に達してしまうと、次に来る救急車の重症患者を入院させるスペースがないということになります。

 そうなると、軽症の患者は病院以外の場所で療養してもらうことになります。自宅や自治体が用意した宿泊施設です。患者が病院からあふれていくというのはこのようなことです。

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筆者

岩崎賢一

岩崎賢一(いわさき けんいち) 朝日新聞社 メディアデザインセンター エディター兼プランナー

1990年朝日新聞社入社。くらし編集部、政治部、社会部、生活部、医療グループ、科学医療部などで医療や暮らしを中心に様々なテーマを生活者の視点から取材。テレビ局ディレクター、アピタル編集、連載「患者を生きる」担当、オピニオン編集部「論座」編集を担当を経て、2020年4月からメディアデザインセンターのバーティカルメディア・エディター、2022年4月からweb「なかまぁる」編集部。『プロメテウスの罠~病院、奮戦す』『地域医療ビジョン/地域医療計画ガイドライン』(分担執筆)。 withnewsにも執筆中。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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