メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

新型コロナ検査。埼玉県100人の結果から見えた限界と課題

「調査の目的化」に意味はない。保健所は医療機関を支援する業務に注力せよ

松浦新 朝日新聞経済部記者

ソウル郊外の高陽市では、新型コロナウイルスの検査にドライブスルー方式が登場したが……=2020年2月26日、同市提供

 新型コロナウイルスにかかっていないかどうかを調べる検査が少ないという批判の声が大きくなっている。諸外国に比べると、人口あたりの検査数が圧倒的に少ないからだ。

 この批判は正しいのだろうか。

高熱が出てなくても検査を実施

 そこで、埼玉県が4月1日までに公表した同県内に住む100人の検査結果を分析してみた。検査といえば、インフルエンザの時のように、高熱がでて受ける人が多いと思うだろう。ところが、陽性が確認された人は、発熱がない「平熱」の人が16人、「37度台」の人が19人と、比較的低い人が35人もいることがわかった。

 これは、検査時の体温ではない。保健所は陽性と判明した人から、せきやのどの痛み、熱などが出はじめた時からの症状を聞き取り調査して、時系列で公表している。その記録から、検査を受けるまでに記録された最も高い体温をピックアップしたものだ。ほかは、「38度台」が38人、「39度台」が23人、「40度以上」が4人だった。

 なぜ、こんなことが起きるのか。それは、新型コロナを心配する人が電話する「帰国者・接触者相談センター」という名称が象徴している。海外からの「帰国者」と、感染した人との「濃厚接触者」が、保健所などのターゲットであると読める。

 そこで、陽性と確認された人を、帰国者と接触者に着目して分類した。帰国者は30人いて、検査の時まで発熱がなかった人が2人(7%)、「37度台」が5人(17%)だった。一方、陽性が判明した人との「濃厚接触」が指摘されて検査をした人は43人いた。そのうち、平熱の人が14人(33%)、「37度台」が9人(21%)で、合わせると半数を超えていた。

検査までに広がる感染

 帰国者でも濃厚接触者でもなかった人は27人で、平熱の人はおらず、「37度台」も5人(19%)と、明らかに少ない。この人たちの多くは、検査にたどり着くまでに熱が出て、何度も医療機関にかかっている。

 例えば、春日部市の50代の会社員は、3月8日(日)に同市内の会社で仕事をした後、39度の熱とのどの痛みを覚えた。翌日は休みだったが、10、11日は熱もなく出勤した。12日は発熱で仕事を休み、13日午前中に自転車で医療機関にかかった。熱が上がって休み、下がって出勤することを繰り返しながら、3回医療機関にかかり、18日にようやく検査を受けて陽性が判明する。

 この人の周りには「濃厚接触者」が多く出た。同居する80代の母に熱などの症状はなかったが、20日に陽性と判定された。会社の同僚4人も感染がわかったが、いずれも症状がないか軽く、医療機関にはかかっていない。その一人の50代の女性はせき程度で熱はなかったが、同居する20代の子供2人も陽性とわかった。その一人の男子大学生は、検査を受ける前に38度台の熱がでて、13日に医療機関にかかったが検査にはつながらず、熱も症状もなくなっていた。陽性と判定された母の濃厚接触者となったことで、ようやく23日に検査を受けたのだ。

拡大初期には有効な「積極的疫学調査」だが……

 このように、陽性が判明した人の濃厚接触者を追いかける調査を「積極的疫学調査」という。陽性者がみつかると、その人の行動を調べて、関係者にあたり、症状がでていようがなかろうが検査をして、さらなる拡大を防ぐ。

 積極的疫学調査は、感染が広がり始めた初期には有効だが、

・・・ログインして読む
(残り:約1206文字/本文:約2663文字)