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元検事総長も弁護士も会長・社長の言いなりだった~関西電力の監査制度の実態

倫理観を失ったエリートたち。コーポレート・ガバナンスの最大の危機

加藤裕則 朝日新聞記者

 「ブラックジョークのような会議だ」と聴衆の一人は筆者に漏らした。昨秋、関西電力の現役の監査役が登壇した日本監査役協会の全国会議のことだ。

 それから半年がたち、関電は金品受領問題の最終報告書を公表。関電の首脳や幹部社員たちの倫理観や正義感を欠いた行動が明らかになった(『偽札、ロレックス、上乗せ報酬……漫画のような「関西電力報告書」』参照)

 監査役の全国会議はまさしくブラックジョークとなったのだ。

 いま、あらためて思う。関電の監査役はどんな思いでステージに上がったのだろうか。

監査役拡大日本監査役協会の全国会議=2019年10月3日

関電監査役に割れんばかりの拍手

 2019月10月3日午後、大阪城公園近くの大型ホテルであった日本監査役協会の全国会議で、パネルディスカッションが開かれようとしていた。テーマは「企業不祥事防止に向けた監査役等の役割─高まる期待に応えるために─」だった。

 4人のパネリストのうちの一人が関電監査役の八嶋康博氏だった。前日、社長と会長が記者会見をして事実関係を説明して陳謝し、新たな第三者委員会の設置を表明していた。八嶋氏は冒頭、自己紹介の場面でこう切り出した。

 「関西電力の八嶋でございます。よろしくお願いいたします。まあ、思い切ってやって参りましたので、お手柔らかにお願いいたします」

 1200人の聴取がどっとわいた。直後、割れんばかりの拍手も起きた。

 続けて八嶋氏はこう力説した

 「本件は、第三者委員会で全容が明らかになります。現段階であれこれと述べることは差し控えたい。執行サイドの対応について、社外監査役と社外取締役と連携し、しっかりと監視・検証していく」

 会場の割れんばかりの拍手は何だったのか。逃げ隠れしない八嶋氏の度胸の良さを評価したのだろうか。

 参加者の多くは、事件についても何かしら言及するものと期待したのではなかろうか。だが、八嶋は冒頭のコメントで釘を刺して、この問題についてこれ以上、触れることはなかった。

 冷めた目で見る聴衆もいた。「しらけるね」「よく出てきたね」といった声を聞いた。ただ、このとき、多くの参加者は「八嶋氏は直接、金品の受領のことを知らなかったのだろう」(監査役協会幹部)という思いだった。

 八嶋氏は、関電の強力なコーポレート・ガバナンス(企業統治)やコンプライアンス(法令や規範の順守)体制について説明し、会場の人たちはおとなしく聞いていた。

 しかし、3月14日の調査報告書でその希望は明確に打ち砕かれることになった。


筆者

加藤裕則

加藤裕則(かとう・ひろのり) 朝日新聞記者

1965年10月、秋田県生まれ。岩手大人文社会科学部卒業。1989年4月に朝日新聞社入社。静岡支局や浦和支局(現さいたま総局)などに赴任した後、1999年東京本社経済部員。その後、名古屋や大阪でも経済記者を務めた。経済部では通産省(現・経産省)、鉄鋼業界、トヨタ自動車(名古屋)、関西空港・神戸港などを取材した。コーポレート・ガバナンスや会計監査について自主的に取材を重ねてきた。2014年9月から石巻支局員として東日本大震災からの復興の過程を取材。2018年4月から東京本社の経済部員として経団連などを担当している。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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