小此木潔(おこのぎ・きよし) ジャーナリスト、元上智大学教授
群馬県生まれ。1975年朝日新聞入社。経済部員、ニューヨーク支局員などを経て、論説委員、編集委員を務めた。2014~22年3月、上智大学教授(政策ジャーナリズム論)。著書に『財政構造改革』『消費税をどうするか』(いずれも岩波新書)、『デフレ論争のABC』(岩波ブックレット)など。監訳書に『危機と決断―バーナンキ回顧録』(角川書店)。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
ウイルスとのたたかいは長期戦だ
ノーベル賞学者の山中伸弥・京都大学教授が、新型コロナウイルス問題で立ち上げたみずからのホームページで「5つの提言」を発表した。ご本人は「感染症の専門家ではないが、そんなことは言っていられない」などとテレビ朝日のインタビュー(4月2日)で語り、やむにやまれぬ危機感からの政策提言となったようだ。当面の政策課題について考えるうえで大いに参考にしたり議論の素材にしたりすべきではないだろうか。
筆者は新聞各紙のデータベース検索で記事を探したが、掲載したところはないようだ。しかし、国民の切実な声を背景に学者の視点でまとめられた教授の提言は、政策を担当している政治家や官僚だけでなくメディア・ジャーナリズムの担い手たちにとっても、今後に生かすべきものが含まれているのではないかと思われる。
教授のホームページ「山中伸弥による新型コロナウイルス情報発信」に3月31日付で掲載された「5つの提言」のうち「提言1」は、強力な対策を直ちに実施するよう求めている。(太字も原文のママ)
提言1 今すぐ強力な対策を開始する
ウイルスの特性や世界の状況を調べれば調べるほど、新型ウイルスが日本にだけ優しくしてくれる理由を見つけることが出来ません。検査数が世界の中でも特異的に少ないことを考えると、感染者の急増はすでに始まっていると考えるべきです。対策は先手必勝です。中国は都市封鎖をはじめとする強硬な対策をとりましたが、第1波の収束に2カ月を要しました。アメリカの予想では、厳密な自宅待機、一斉休校、非必須の経済活動停止、厳格な旅行出張制限を続けたとして、第1波の収束に3カ月かかると予測しています。
わが国でも、特に東京や大阪など大都市では、強力な対策を今すぐに始めるべきです。一致団結して頑張り、ウイルスに打ち克ちましょう!
山中教授は、日本の新型コロナウイルス検査の数が諸外国と比べて極端に少ないため、感染者の急増の実態を正確にとらえることができないと危惧している。そのうえで、「感染者の急増はすでに始まっている」から「強力な対策」が必要だと説いている。
その具体的内容は示していないが、中国の都市封鎖やアメリカの厳密な自宅待機、一斉休校、必須でない経済活動の停止などを挙げていることをみれば、同様の措置を日本も東京や大阪などの大都市で「今すぐに」採るよう求めていることがわかる。インタビューでは「トップのリーダーシップ」による強いメッセージや外出制限の徹底を求めていたが。そのためには法律に基づく緊急事態宣言をすぐにでも、という趣旨ではないかと筆者は受け止めた。
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