新型コロナ 子供食堂から見た「緊急事態宣言」の重みと苦しみ
「せたがや子ども食堂・みっと」の井上文事務局長に聞く
岩崎賢一 朝日新聞社 メディアデザインセンター エディター兼プランナー
4月7日夜に発出された「緊急事態宣言」とともに、難しい岐路に立っている地域の社会活動の一つに「子供食堂」があります。2月末の突然の一斉休校要請から、各地の運営者たちは、継続か、中止か、お弁当配布か、食材配布か、その手法に悩みながら活動を続けてきています。食事の大切さとともに家庭と学校以外の「サードプレイス」にもなっていました。社会的な活動をどこまで休止させるのか、自粛するのか――。

夕食をみんなと一緒に食べる楽しみも知って欲しい=みっと提供
食堂中止、お弁当配布、食材配布……苦悩する子供食堂
子供食堂を取り巻く環境は、2月27日に安倍晋三首相が全国の小学校、中学校、高校、特別支援学校に春休みまでの「一斉休校」を求めたのが最初の転換点でした。外出自粛が強調され、子供食堂に行くこと、集団で食事をとることによる感染リスクが懸念されるようになりました。一方で、学校が長期間休校になることで、給食を食べられない子供がでるという問題も出てきました。
そもそも、子供食堂は子どもの貧困問題を受け、ボランティアベースで各地に広がった動きです。コロナ禍が世の中を覆い、子供の姿が見えなくなったときこそ、食堂が必要だという声は強く、一緒に食べることにリスクがあるなら、お弁当を配布しよう、食材の配布ではどうか、と工夫をしながら活動してきています。
NPO法人「全国こども食堂支援センター・むすびえ」は3月5日に「新型コロナウイルス対策緊急プロジェクト」をスタートさせ、4月2日現在、12の企業や団体から食材約3万食、野菜2240キロ、アルコール製剤2000リットル、マスク300枚の寄付を受け、全国の延べ321カ所の子供食堂や地域ネットワークに配布しました。この活動は延長され、4月30日まで延長になっています。
東京都内で一番感染者が多い世田谷区。人口が92万人と多いことから、他の区と単純比較できませんが、区は4月3日、教育委員会と協議し、分散登校の方針を改めて中止するとともに、学校休校を5月1日まで延長しました。

4月の食堂、お弁当配布の中止を知らせる貼り紙=みっと提供
このような動きを受け、東京都世田谷区にある子供食堂の一つ「せたがや子ども食堂・みっと」は、集まって食事をする食堂形式の代わりに3月16日から週2回のペースで始めていたお弁当の配布の中止を決めました。長期休校なので、お弁当でもいいから必要な子どもたちにという思いで始められましたが、「不必要な外出の自粛」が強調されたことで、苦渋の決断をしました。学校からだけでなく、街からも子どもの姿が見えなくなり、心配が増しています。
イギリス・ロンドンやイタリア・ローマでは、ボランティアが食材を個別に配布するボランティアもあります。日本はどうなるのか。みっとの井上文事務局長に聞きました。
(https://www.facebook.com/setamitt/)
「子どもの問題は保護者の問題でもある」
――いつもは何人ぐらいの子どもが利用していますか。
小学生と中学生を対象にしていますが、大半は小学生で、毎回1年生から6年生の12~15人が利用しています。みっとは、「一人で来ていいよ」が合言葉です。親子ではないと食べられない食堂にしてしまうと、シングルマザーの子どもが来られなくなってしまうからです。みっとは、子どもが一人で入れる食堂というスタイルをとっています
――どのようにして周知を図っているのですか。
2015年11月にスタートしましたが、食堂は人通りの多い通りに面していることもあり、わいわいがやがや楽しそうな様子を見て、子どもが入ってくるケースも多いです。チラシをつくり、地元の学校のスクール・ソーシャルワーカーの部屋の前や児童館に置いてもらっているほか、全戸配布もしました。それとみっとのfacebookページを母親が見て「子どもが行っていいですか」と問い合わせてくることもあります。子どもたちも1回食べに来ると「また次も」という気持ちになるようです。
――子どもの貧困が注目されて久しいですが、個々の家庭の事情は外からなかなかわかりません。子どもが抱えた課題については、どう関係してきているのでしょうか。
子どもたちに食事を提供するだけで、社会が抱える課題を解決できるとは思っていません。みっとは月2回、午後4時30分から午後7時に開いている子どものための食堂です。終わった後は、スタッフが自宅まで送っていく子どももいます。親の中には、動けないほど仕事で疲れている母親もいます。カギを忘れて家の中に入れないこともありました。気分に波がある保護者もいます。
子どもの問題は保護者の問題でもあると感じます。支える人たちがきちんと支えていかないといけないといつも思います。