人種、職業、世代、ITデバイド。災害ではまず弱者が犠牲になる
2020年04月12日
新型コロナが社会の分断を露わにしている。
打撃が大きい宿泊・飲食業の従業員の多くは、雇用保険に非加入のパートやアルバイトである。風俗系など「夜の街」で働く女性たちは、生活困窮の声を上げることすら難しい。
米国では大都市の死者に占める黒人の比率が異常に高いことが明らかになった。
米シカゴ市の4月6日までの感染者数は5043人、死者は118人である。黒人は人口比率が約30%だが、感染者に占める比率は52%、死者は71%と2倍を超す。
中南米移民の感染比率も高い。ニューヨークや南部のルイジアナ、サウスカロライナ州も同じような状況だ。
米国の失業者は直近で1600万人を超えている。失業すると、賃金だけでなく、勤務先が提供する医療保険も失う。黒人の多くは自己資金で高額の医療保険に加入する余裕がないので、多くは無保険状態に陥ってしまう。
もともと黒人は栄養の偏りから糖尿病や心疾患などの患者が多い。平均寿命は全米平均に比べ、男女とも3~4歳も短い。
シカゴ市のライトフット市長は「シカゴの長年の根深い問題が出てきた。医療や仕事、地域投資の不平等さが根底にある」と語った。
これまで平等の理念で取り繕われてきた米国社会だが、コロナ感染と人種別リスクの関係が残酷な数字として見えてきた。これから人種間の対立感情が悪化する心配がある。
日本では、非正規労働者は2120万人(下のグラフ)で、そのうちパート・アルバイトは計1490万人。その16%に当たる238万人が、宿泊・飲食業で働いている。
この人々が今、解雇の危機にある。各地の労働局に寄せられた相談は、4月9日現在で1700件あるが、これは氷山の一角で、5月以降一気に増える見通しだ。
パート・アルバイトのほとんどは、週の所定労働時間が20時間未満なので、雇用保険に入れない。このため失業すると、原則として失業手当はもらえず、雇用調整助成金(休業手当を払って雇用を維持する事業者に支給される補助金)も対象外になる。
今回は政府の経済対策によって、雇用保険に非加入であっても同助成金の対象に加えられた。それは良いことなのだが、同助成金を申請する肝心の勤め先が倒産する恐れがあり、パート・アルバイトの不安は消えない。
コロナ感染対策の基本は、人もモノも動かさない、つまり経済を止めるということなので、想像を超えた経済危機になることが予想される。
2008年のリーマンショックの時、非正規は1765万人(上のグラフ)だったが、その後の景気回復により355万人増えた。もし今回の危機で経済状況がリーマン時に戻るとすれば、増えた300万人超が解雇の対象になる恐れがある。
それに拍車をかけるのが、この4月から正規と非正規の「同一労働、同一賃金」が施行されることだ。コスト増を嫌う企業が、コロナの影響を口実にして非正規を解雇する動きに出ているので、注意が必要だ。
非正規の中でも、性風俗で働く女性たちは、もっと厳しい現実に直面している。「この仕事が天職」と思っている人もいるが、多くは何か複雑な事情があって、生活のためにこの世界に入った人たちだ。育児をする人も多い。
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