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廃業、取り立て、住宅ローン…コロナ禍はこう乗り越えろ!

政府のコロナ対策は一時凌ぎの経済防衛策にすぎない。従来の常識にとらわれない手段を

川原慎一 事業再生コンサルタント

 新型コロナウイルスに関する経済対策として、政府は「108兆円の支援金を用意」「事業者に100万円」「世帯に30万円」「子ども一人に1万円」等、次々と対策を打ち出している。

 だがそれらは支給方法が混迷を極めているだけでなく、正確には経済対策ではない。超短期的な一時凌ぎの経済防衛策にすぎない。

 ユダヤの格言では「与えるなら1トンの肉よりも一つがいの羊を」と言う。

 ポストコロナの日本経済復活のためには、今こそ政府・自治体、金融機関、事業主、労働者全てが力を合わせた中長期的な対策=「一つがいの羊」が必要となる。

 4者が合意の上で、ポストコロナを見据えて「継続企業、休業企業、廃業企業」にセグメントして、それぞれに支援体制や施策を考えるべきだ。

 もちろんここに述べる対策は、これまでの経済対策の常識を越えるものになる。経験(前例)の無い経済的ピンチを乗り越えるためには、従来の日本経済の常識にとらわれない手段が必要だ。

 約20年間事業再生の実務に当たってきた経験から、「ポストコロナ時に経済が円滑に機能する」ためには、国への提言と、事業主へのアドバイスの2つの柱が必要だと考える。

取材に応じる西村経済再生相(左)=2020年4月1日、東京・霞が関

Ⅰ 国への提言

 国家的危機に際して、金融機関を指導して以下の対策を立てることが急務だ。

1.非常事態宣言で休業(または営業短縮等)を余儀なくされた事業の継続支援~リスケジュールの徹底を

 非常事態宣言の発令で経済活動が低迷する間、「営業縮小」や「自粛」「休業」に追い込まれた個人商店や中小企業は倒産目前だ。全事業数の9割以上を占めるこうした事業が崩壊すれば、経済復活はありえない。事業継続を支援するためには、「支援金の真水化」が必要だ。

 現在検討されている「休業補償」の支援金や補助金、あるいは融資等がそのまま金融機関への返済に回っては、事業継続はままならない。

 そこで企業(事業主)が抱える現状の債務について、政府は返済や利払いの最小化を支援する「リスケジュール政策」を徹底することが必要だ。

 すでに2009年に生まれた「金融円滑化法」により、金融機関は元本返済を棚上げして利払いのみにする対応を続けている。今回もそれを徹底して、申請する全ての事業主にこの制度を認めることだ。

 またすでにリスケしている企業には、返済金額をより減額化して、企業内に活動資金(真水)が残るようにする。

 1990年代後半に行われた「中小企業金融安定化特別保証制度(野中幹事長時代)」の無担保無保証融資の時は、そのほとんどが金融機関への返済に当てられ、企業内には真水(活動資金)が残らず効果が薄れた。その轍を踏んではいけない!

2.ポストコロナの日本経済を支える観光業の休業支援~セール&リースバック、セール&バイバック方式で

 ここ数年急増してきたインバウンド観光事業を牽引してきた「観光業」は、コロナ禍で瀕死の状況だ。宿泊関連施設の休業は長期化し、多くが倒産・廃業に至ることが予想される。

 だがポストコロナを見据えれば、これらは日本経済復活のポイントとなる主要産業だ。なんとしてもコロナ後のプレイヤー(事業主と労働力)を確保しておかなければならない。

 そこで「インバウンド対象の観光業」へのパッケージ支援策が必要となる。

・セール&バイバック、セール&リースバック方式で旅館、ホテル、バス等の設備と事業を守る

 休業が長引けば、事業主は旅館やホテルの建物や設備を維持することができない。そこで早期にこれらを一度国や自治体が不動産評価額の下限で買い取る。その際、事業再開時には事業主が再び買い取る(バイバック)か賃貸契約を結ぶ(リースバック)契約を結ぶ。金融機関はその際の融資を約束する。

 事業主は事業の本格再開を目指して、その間施設を維持し、労働者の雇用維持にも務める。

 こうすれば事業再開時には元の事業主が経営を続けることができ、従業員も従前の体制で運営にあたることができる。

 ポストコロナにおいて、観光業は国の主要産業となる。2021年夏に東京五輪が開催されるのなら尚更のことだ。

3.コロナ以前から経営が末期症状だった企業の廃業支援~労働債権の保全、経営者の資産の維持

 私が最も主張したいのは実はこの点にある。コロナ禍は試練だが、オールドエコノミーが退場しニューエコノミーに生まれ変わるまたとないチャンスともいえる。

 歴史的に見ても、2002年のSARS禍の時は、オンラインショッピング事業を掲げた中国のアリババが台頭し、その後の経済の牽引車となった。感染症ではないが、1995年の阪神淡路大震災を契機に生まれた「楽天」もその一つだ。

 世界的な災害時は経済の流動化、新たな産業構造創出、産業集約のきっかけにつながる。

 その状況の中で、コロナ以前から低迷するオールドエコノミーにとっては「廃業=事業承継」のチャンスだ。コロナが理由の廃業なら、経営者のメンツも守られる。以前から廃業のタイミングを見計らっていた企業は、コロナ禍を廃業のきっかけにするべきだ。

 その際政府に求められるのは、退職者(労働債権)に対してケアすること。ケースによっては、政府が代替わり支給する対応も必要だろう。

 金融機関は、廃業する経営者の個人資産(自宅等)の抵当権行使を一定期間停止(たとえば3年間)する。そうすれば経営者は安心して廃業を選択でき、新しいプレイヤーにバトンタッチできる。

VitaminCo/Shutterstock.com

4.廃業後支援

 すでにコロナ前に事業を廃業している事業主も、残債を保証協会等に月に数万円返済しているケースが多い。この場合もコロナ禍により収入減となるから、保証協会等への返済を3年間程度モラトリアム(返済猶予)する対策が必要だ。

5.サラリーマン~住宅ローンのリスケジュール

 サラリーマンの経済を圧迫しているのは、住宅ローン返済だ。収入が減っても自宅に住み続けることができるように、金融機関は住宅ローン返済を3年間程度リスケジュールする。元本返済を猶予し、利子のみの返済とする。

 現在考えられている「収入減少世帯に30万円支給」という対策も、家計の支出を減らすこの対策があってこそ効力を発揮する。

Ⅱ 事業主、サラリーマンへのアドバイス

・大胆な金融機関交渉が可能だ

 債務者である事業主やサラリーマンは、この苦境を乗り切るために金融機関との交渉が必要となる。

 すでに「I」で国への提言を書いたが、すぐにこの対策がとられるとは限らない。それまでの間は、以下に述べるような個人の交渉が必要だ。

 経済防衛の基本は『入るを量りて出ずるを制する』。中でも金融機関への返済が圧縮できれば、事業も家庭もふんばることかできる。

 普通の経営者やサラリーマンにとって、金融機関への返済をしないとか遅らせることなど、考えたこともないかもしれない。

 しかしコロナ以前から、中小企業のおよそ40%が銀行への元金返済の減額=リスケジュールをしている。2009年に生まれた「金融円滑化法」以降、国の方針もあり、リスケジュールには金融機関は協力的だ。

 とはいえ、リスケジュールにも金融機関交渉が必要だ。そのためには、どのようなステップを踏むべきか。

1.金融機関に逃げずに交渉する

 金融機関が返済の遅れている債務者に対して返済を求めるのは仕事として当然だ。それをしなければ仕事をしていないことになる。

 また債務者の返済が滞っている理由を担当者が把握できなければ、上司には叱られる。

 だからリスケジュールを望む債務者は、返済をストップする前に担当者に連絡をとり、現状の説明責任を果たすことが大切だ。金融機関に足を運び、こちらから積極的に経済状況を説明すべきだ。

 担当者に必要なのは、債務者が返済不能になった理由とその経済実態の把握だ。

 そこで債務者が用意すべきは資金繰りの実態を表す資料だ。

 売り上げ(収入)から人件費(人)、仕入れ支払い(モノ)、最低必要な経費(家賃・電気ガスなど)を引くと、返済に回すキャッシュが無いことを、たとえ稚拙でもペーパーに落として提出する。サラリーマンならば給与がどのくらい減額になったかが説明できればいい。

 金融機関担当者は、債務者を前にしても頭の中は上司と本部にいかに説明するかを考えている。その時にこのペーパーが必要なのだ。

 安心していい。まともな担当者なら、人とモノへの経費支払いをせずに金融機関への返済を優先せよ、とは言わない。

 なぜなら人とモノへの経費の支払いより金融機関の返済を優先すれば、早晩事業は破綻してしまうからだ。事業があるからこそ返済が可能になることは、担当者も熟知している。

2.金融機関の取り立てへの対処

 しかし金融機関との交渉の過程で、「債権の取り立て」が始まることもある。恐れることはない。その対処法の一部を紹介しよう。

・返済ストップの初期段階

 この段階では、「返済が滞ると、ご信用にかかわります」という言い方をしてくる。漠然とはしているものの、「はい、いいです」とは答えにくい内容だ。

 ここでの信用とは、延滞が続くと金融機関が加入している調査機関に報告が及ぶということ。「次の借り入れ時に困りますよ」という意味だ。

 同時に心理的圧力をかけその気にさせるのも目的だ。取り立てとは、まず借り手に返済意思を持たせるのが第一段階だからだ。

 とはいえ、取り立てにはガイドラインがあり、他から借りて返せとは言えない。ここは、「仕方ないですね」と反応すべき。延滞期間が3か月程度までは信用情報には記載されない。

・返済計画を提出してください

 金融機関にこう言われたら、「今月は返せなくても、今後返済できますよね」という圧力だと理解しよう。コロナ禍が収束して営業が元に戻れば、返済も可能なはず。「返済再開できるようになったら、こちらから連絡します」と答えよう。

・「このまま返済遅延が続くようだと、担保になっている不動産(自宅など)に影響しますよ」

 この言葉は、「担保物件を売って返せ、競売にかける」ことを想像させる。

 けれど返済を止めてすぐにこの処置をするわけではない。競売手続きまでには少なくとも半年から1年以上はかかるし、そうなったら別の手段がある。

 まずは手元の現金を大切にすることだ。

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3.個人の住宅ローン返済への注意

・まずは夫妻の合意を

 今回のコロナ禍で、給与の減額や失業が増えることは残念ながら多いと予想する。家計の支出の大きな比重を占める住宅ローンを抱えている人は、収入減となっても生活費(食費、光熱費等)を最優先にすべきだ。

 まずは金融機関に現況を説明し「リスケジュール」を申し入れよう。元本返済を猶予してもらい、利払いのみにするのだ。

 これには「夫妻での合意」が欠かせない。これまでの経験からすると、妻は夫以上に自宅に固執する。先々のことをよく話し合い、夫妻で難局を乗り越えよう。夫妻がこの局面で対立してしまうと、仮に経済的には解決してもふたりの関係は元に戻らない。悩みの種になってしまう。

・返済ストップで何が起きるか

 実際に住宅ローンの返済をストップすると何が起きるか? 金融機関との交渉経験がないサラリーマンには、「自宅を売って返してください」という言葉や競売シーンが頭に浮かぶはずだ。この不安から夫婦喧嘩になる方が多い。

 だが現状では、住宅ローンについても返済のリスケジュールを認める金融機関が増えている。その方法は二つある。

返済期間の延長~最長35年まで返済を延長する。完済年齢が75歳という規定もある
一時的な返済猶予~半年から1年間、返済を利払いのみとする方法

 このどちらかを選んで交渉することだ。

・さらに自宅を守る方法

 それでも返済が難しい場合、前述した「自宅の売却や競売」という状況になるまでには半年から1年以上かかる。その間に自宅を失わない方法もある。第3者名義での買戻しや、一旦買い取ってから「リースバック(賃貸)」で自宅使用をサポートする業者もいる。

 間違っても高利の消費者金融などで借りて住宅ローンを返済してはいけない。高金利で家計が破綻してしまう。

 また万が一自宅を失うことになっても、生活優先であれば家族は守れる。夫妻でよく話し合い、大切なものを見定めるべきだ。

 ハウスよりホームが大切!

 この結論こそが、復活への狼煙だ。

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