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コロナ検査不足が医療危機を生んでいる

診断・隔離・治療政策を立て直せ

小此木潔 上智大学教授(政策ジャーナリズム論)、元朝日新聞論説委員

 これまで新型コロナウイルス感染を調べるためのPCR検査拡大に否定的とみられていたクラスター対策の中心人物が、検査不足を医療危機の主要な原因として挙げるようになった。

 感染者急増の中で医療関係者の感染や病院の機能不全が相次ぎ、このまま検査数を絞り続ければ隔離もろくにできず、それが原因となって医療崩壊を起こしてしまうという現状への強い危機感が背景にある。最近は検査数もようやく増えつつあるが、感染経路不明の感染者が増えていることを見れば、クラスター対策の限界も見えており、いまや検査の徹底は急務である。

 政府は検査の徹底による早期診断と感染者隔離、早期治療へと明確に舵を切り、医療崩壊を食い止めつつ国民の命と暮らしを守らなければならない。専門家会議や学会も検査に後ろ向きだったこれまでの姿勢を改め、政府全体が検査徹底に動くよう本気で求めるべきだ。

 政府は、危険な環境で懸命に働く医療関係者や感染に苦しむ国民の命と健康を守るためにこれまでの政策を改め、検査の徹底を梃子に診断・隔離・治療体制を全力で立て直すことが喫緊の課題だ。

「検査不足で破綻しかかっている」

 「新型コロナウイルス感染症 -疫学・対策から臨床・治療まで」をテーマに日本内科学会(矢冨裕理事長)が4月13日に開いた講演会・緊急シンポジウムの席上、基調講演をした押谷仁・東北大教授から、意外な言葉が飛び出した。

 「第二波の流行対応は、なぜ破綻しかかっているのかということです。ひとつは、PCR検査数が増えてこないことにある」

 第二波と教授らが呼ぶ欧米からの感染が日本国内で広がっている現在、医療機関での感染者の急増が続き、医療対応が破綻しつつある。その原因の第一に挙げられるのはPCR検査の不足だというのである。押谷教授は、これに続けて次のように述べた。

 「我々は、検査数を増やすなということは一度も言ったことがなくて、感染者数が増えている中でPCR検査が増えないということは、非常に大きな問題です」

 「政府、行政がいろんな努力をしているが、必ずしもスピード感をもって実効性のある形で見えてこない。それが今の状況を生んでいます」

 押谷教授はこのあと、新型コロナウイルスに「対応する病床が増えない」ことや、「院内・施設内感染が大規模化・続発」していること、「重篤な感染者に集中治療(ICU、人工呼吸器、ECMOなど)」「東京などでは救急医療そのものが破綻しかかっている」を列挙し、PCR検査の不足とともにこれらが流行対応の破綻を引き起こしつつあると述べた。

 押谷教授は政府の新型コロナウイルス感染症対策専門家会議のメンバーとして有名で、厚生労働省のクラスター対策班の中心人物だ。これまでNHKなどのテレビ出演から見る限り、教授がPCR検査拡大にきわめて慎重ないし反対ともとれる論を唱えてきたという印象があっただけに、驚いた参加者も少なくなかったのではないか。

拡大押谷仁・東北大教授=NHK画面から

 実際、3月22日のNHKスペシャル「専⾨家に聞く〝新型コロナウイルス〟との闘い⽅と対策」で、押谷教授は、以下のように述べていたのである(以下NHKホームページから引用。見出しと太字もママ)。

日本のPCR検査について

「PCR検査の数が少ないので見逃している感染者が多数いるのではないかという指摘もありますが、本当に多数の感染者を見逃しているのであれば、日本でも必ず〝オーバーシュート〟が起きているはずです。現実に日本では〝オーバーシュート〟が起きていません。日本のPCR検査は、クラスターを見つけるためには十分な検査がなされていて、そのために日本では〝オーバーシュート〟が起きていない、と。
実はこのウイルスでは、80%の人は誰にも感染させていません。つまりすべての感染者を見つけなければいけない、というわけではないんです。クラスターさえ見つけられていれば、ある程度制御ができる。むしろすべての人がPCR検査を受けることになると、医療機関に多くの人が殺到して、そこで感染が広がってしまうという懸念があって、PCR検査を抑えていることが日本が踏みとどまっている大きな理由なんだ、というふうに考えられます。」(押谷仁教授)

「オーバーシュート」を起こさないためには?

「感染者、感染連鎖、クラスター、クラスター連鎖。このいずれも監視下に置くことができれば、流行は起こさないです。そういうことが、今の日本の戦略だということになります。」(押谷仁教授)

 ここでは、教授は検査抑制が感染の抑え込みに役立っているとすら述べ、検査の拡大は不要であるといわんばかりだ。これほど検査増に否定的な口調だった人がいま検査を増やすべきだと語るとは、いったい何があったのだろう。

 転換のヒントとなるやりとりが、4⽉11⽇に放送されたNHKスペシャル「新型コロナウイルス 瀬⼾際の攻防」にあった。

 そこでは、司会のデスクが「前回ご出演頂いた時は、むやみにPCR検査を広げるのは院内感染を起こして危険だという話もされていたと思うんですが」と尋ねたところ、教授は次のように答えたのである(以下はNHKのホームページから引用)。

「このウイルスは、症状がない、あるいは⾮常に軽症の⼈が多いので、その状況ですべての感染者を⾒つけようと思うと、⽇本に住むすべての⼈を⼀⻫にPCR検査にかけないといけない。それは到底できないことなので、我々の戦略としては〝クラスター〟を⾒つけて、その周りに存在する〝孤発例〟を⾒つけていくと。その〝孤発例〟の多さから流⾏規模を推定して、それによって対策の強弱を判断していくという戦略になります」
「感染者が急増している状況の中で、PCR検査が増えていかないというのは明らかに⼤きな問題です。⾏政もさまざまな形で取り組みを進めていることは承知していますが、⼗分なスピード感と実効性のある形での『検査センター』の⽴ち上げが進んでいないということが、今の状況を⽣んでいると理解しています。しかしいくつかの地域では、⾃治体・医師会・病院などが連携をして、検査や患者の受け⼊れ態勢が急速に整備されている状況です。そのような地域では事態は好転していくと、私は信じています」

 NHKのサイトには書かれていないが、このやり取りで教授は次のようにも答えていた。

 「すべての感染者を見つけなくても、クラスターさえ起きなければ、感染は広がらず、多くの感染連鎖は自然に消滅していくというウイルスです」

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筆者

小此木潔

小此木潔(おこのぎ・きよし) 上智大学教授(政策ジャーナリズム論)、元朝日新聞論説委員

上智大学教授。群馬県生まれ。1975年朝日新聞入社。富山、奈良、大阪、ニューヨーク、静岡、東京で記者をしてきた。近年は日本の経済政策や世界金融危機など取材。2009年5月から東京本社論説委員室勤務、11年4月からは編集委員も務め、14年4月から現職。著書に「財政構造改革」「消費税をどうするか」(いずれも岩波新書)、「デフレ論争のABC」(岩波ブックレット)。

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