経営者は今こそ「Withコロナ」から「ポストコロナ」を見据えた新戦略を考える時だ
2020年04月24日
「えっ!この状況でも営業を続けているの?」
それは「驚き」に近い感覚だった。
緊急事態宣言が発令されて約2週間。休業要請は出ていないとはいうものの、多くのレストランは顧客や従業員の感染を恐れて店を閉めている。その状況の中で、「グランメゾン」と呼ばれるとある高級フランス料理店が、いまも営業を続けていると聞いて驚いた。
都心の一等地で席数約60。調理場とサービスを合わせれば優に30人からのスタッフがきびきびと働く老舗だ。
もちろんめったに足を向けられないほどメニューは高価だけれど、客を納得させるシックな内装の店の家賃は月額およそ300万円。人件費や光熱費等を合わせれば、固定費だけで月に1000万円を優に越える。
いつもなら日々予約で満卓の店内を見回して、オーナーシェフは「家賃は3日で稼ぎだせ」と言うのが口癖だった。創業以来通いつめる大勢のファンに支えられた、フランス料理界の頂点に君臨する店なのだ。
ところが現状では、これまで日本の食文化をリードしてきたこの店に対しても、政府からスタッフへの休業補償は無く、経営者に対しても支援金は企業で200万円、個人なら100万円。しかもそれらは全て一時金だ。
無利息の融資枠を設けたとはいうものの、今申し込んでも面談開始が6月末と言われる。個人でこれだけの規模の店を維持しようとしたら、いくら内部留保があっても経営は立ち行かない。
そんな状態でも、このシェフはかたくなに雇用を守り、外出自粛の最中でも予約来店する顧客があるかぎり店を開け続ける。「スタッフの雇用を守るためには休むに休めない」という事情もかいまみえる。
もちろん苦境に立っているのはこの店のシェフだけではない。しかし、全国の経営者の苦悩を思えば、安倍首相の言葉が虚しく響く。
「休業に対して補償を行っている国は世界に例がなく、わが国の支援は世界で最も手厚い」
本当なのか? 世界一の料理文化を誇るフランスの事情はどうなのか?
取材でパリを訪ねた折りに何度か足を運んだ市内北駅近くにあるレストラン「シェ・ミッシェル」のオーナーシェフ、河合昌寛氏にその事情を聞いてみることにした。ここは星こそもたないが、一階と地下の約70席はいつも地元客で満員の人気店だ。
河合氏は2001年に渡欧し約20年間フランス、イタリア、ポルトガル等さまざまな国のレストランで腕を磨いてきた。現在の店のオーナーシェフになったのは2015年のこと。料理の本場の補償事情を聞くにはうってつけだ。さっそくメールで質問を重ねると、コロナ禍におけるフランス政府の方針が見えてきた。
周知のようにフランスでは、3月16日にマクロン大統領がロックダウン宣言を発令。17日から食料品店と薬局以外全ての店舗が強制休業となった。4月13日には「5月11日までの休業延長」も出た。当然河合氏の店も休業している。
従業員の生活はどうやって守っているのだろう? 河合氏はこう答えた。
「休業しても従業員の給料は国から補償されています。補償率は契約した手取りの84%。今回の休業中ずっと出ます。ぼくらオーナーには所得補償はありませんが、1500ユーロの補助金が出ます。それと月の売り上げの3倍程度の額の融資が出ます。一年で返済すればほぼ利息なし(0.25%)、6年以内に返済で2年目からは通常どおりの1.5~2%の金利です。給料補償はロックアウトの2週間後に政策決定しました。その他、民間の保険会社とも契約していてデモや火事の時は保険金が出るのですが、今回は対象外と言われて大抗議運動が起きています」
河合氏は、ある従業員の給与明細も示してくれた。
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