東京弁護士会中小企業法律支援センターに寄せられる相談内容から
2020年04月28日
筆者は、事業者向けに法律相談を行う弁護士を紹介する東京弁護士会中小企業法律支援センター(以下「東弁中小センター」という)に所属している。新型コロナウイルスの影響で、事業者が様々な相談を依頼し、その件数も急増している。
そこから見える、中小企業・小規模事業者の支援のために果たすべき専門家の役割について、思う所を述べたい(なお、本稿は筆者個人の見解に基づくものであり、東弁中小センターはじめ筆者が所属する組織とは関係のないことをお断りする)。
初めに、東弁中小センターは、平常、事業者向けに弁護士を紹介している(相談の流れはこちら)。電話(03-3581-8977 平日10時~16時)かウェブで申込ができる。
特徴としては、まず配点担当弁護士(コンシェルジュ)が電話で事案の概要を聴き取って、事案に適した相談担当弁護士を紹介するところにある。
コンシェルジュによる電話対応と、相談担当弁護士による相談の初回30分は、いずれも無料である。弁護士紹介の受付は、4月8日の緊急事態宣言発令後も継続しており、新型コロナ関連の問題についても対応している(こちら参照)。
東弁中小センターでは、新型コロナウイルスの影響を受けている事業者向けに、様々な情報発信を行っている。労働関係、取引関係、下請法、資金繰り対応などのQ&A集や各種の有益な情報をまとめたリンク集を掲載しており、随時更新している。
事業者の皆様におかれては、ぜひ活用していただきたい。
新型コロナウイルスに関連して、東弁中小センターに寄せられた相談には、次のようのものがある。
まず、資金繰りが苦しいので、どうすればよいのかという相談である。弁護士は、政府系金融機関や信用保証協会付きの融資制度や、支払猶予(リスケジュール)の交渉方法を教えたり、資金繰り表の作成をアドバイスする。
次に、雇用関係である。休業中の従業員に給料や休業手当を支払うべきか、微熱が続いているという従業員に自宅待機を命じるべきか、従業員を休ませた場合の給料を助成する制度はないか、などである。
賃貸借関係もある。資金繰りが厳しいので賃料の支払いを猶予してもらえないかという相談や、賃料の支払いの猶予を求めたら家主から契約条件の変更を提案されたというケースもある。
多いのは契約関係である。商取引の多くは、事業者側の商品やサービスを提供する債務と、利用者側の代金を支払う債務が、双方向で関連しているが(「双務契約」とも言われる)、新型コロナウイルスの影響で、前者が履行できなくなったため、反対債務である代金を支払う債務がどうなるのか(事業者からみれば、未収の代金はもらえるのか、受領済みの代金は払い戻さなければならないのか)という形で問題が現れてくる。
他には、利用者が感染していた場合に、損害賠償請求ができるのかという相談もある。
また、新型コロナウイルスの感染防止のための新規ビジネスを立ち上げたいので、法令に違反しないかとのチェックをお願いしたいという前向きな内容もある。
筆者の印象では、新型コロナウイルスの問題が起きる前と比べると、切羽詰まった内容が多いのは当然だが、予防型の相談、つまり、従業員は未だ感染していないが感染したらどうなるのか(それに備えてどうすればよいのか)、資金繰りが苦しくて融資の申込をしているが審査が通らなかったら弁護士に依頼したい、といった先を見据えた内容も増えているように感じている。
新型コロナウイルスに関する事業者の法律相談を受けて感じるのは、まず有益な情報が事業者に行き渡っていないことである。新型コロナ関連の支援策は、量も多く内容も多岐に亘っており、しかも日々更新されるから、これはある意味やむを得ないことである。
この点、官公庁や公的団体の情報発信は質量ともに大変充実している。事業者向けの支援情報はほぼ全て経済産業省のサイトに掲載されており、同省のパンフレット「新型コロナウイルス感染症で影響を受ける事業者の皆様へ」に集約されている。
雇用関係であれば厚生労働省のサイトがあるし、中小機構(J-Net21)のサイトも一覧性に優れている。インターネットを駆使してこれらの情報源に当たれば、基本的には必要な情報は全て手に入る。
しかしながら、事業者によっても、事業内容や規模、外部環境は千差万別であり、それぞれに抱えている問題が異なっている。そして、新型コロナウイルスの蔓延という未曽有の事態で、経営者自身が多忙になったり、精神的に余裕がなくなったりするために、思うように情報収集が進まないこともある。
筆者の経験でも、話をよく聞くと、平常であればしっかりと情報を集めて判断する能力があると見受けられる経営者なのに、この異常事態のためか、意外と相談窓口などの情報を知らないというケースもあった。
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