メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

新型コロナが浮き彫りにした埼玉県の「医療過疎」の厄介な実態

ことは埼玉だけの問題ではない。カギを握る「在宅+オンライン」診療

松浦新 朝日新聞経済部記者

 新型コロナウイルスのまん延で、埼玉県の「医療過疎」の実態が浮き彫りになっている。発熱で救急車を呼ぶ人の急増に、医療機関が対応しきれず、「たらい回し」が急増しているのだ。同県では入院を自宅で待っていた感染者が2人続けて亡くなるなど、診療態勢が問われているが、医療資源を依存してきた東京都の感染が深刻なだけに、孤立無援の状況になっている。

 同県消防課によると、4月1日から26日までに、救急車が1人の患者で受け入れを5回以上要請した件数は、前年同期の7割増の512回だった。病院などが受け入れを4回以上断ったケースが206人も増えたのだが、そのうち発熱か肺炎の患者が131人と、前年より115人も増えている。

もともと医師も医療機関も少ない埼玉県

 新型コロナの可能性がある患者を医療機関が警戒する結果が数字に現れた形だが、もともと医師も医療機関も少ないという埼玉県の実情が、拍車をかけているのは否めない。県民10万人当たりの医師数(2018年末)は全国最低の170人と、最も多い徳島県の330人のほぼ半分だ。ちなみに東京都は308人と全国平均の247人を大きく上回る。埼玉県民の医療は東京に依存してきたのが実態だが、新型コロナには東京の医療機関も防戦一方だ。

 医師がいなければ病床は増やせない。精神病床などを除く一般病床数(2018年10月末)を人口10万人当たりで見ると、埼玉県は503床と全国一の高知県(1120床)の半分もなく、全国平均の704床に遠く及ばない。

 埼玉県では高齢化が進むにつれ、病床不足が顕在化してきた。2013年には同県久喜市の男性が救急搬送を36回断られた末に亡くなる「事件」も起きた。そのため、タブレット端末やスマートホンで受け入れ可能な病院を探す救急情報システムを導入するなど、県も対策をとってきた。

自治医大付属さいたま医療センターの集中治療室(ICU)(筆者撮影)

入院待ちの患者が相次いで死亡

 埼玉医大の高度救命救急センターで働いた経験から、救急病院が重症者の治療に専念できるように、2010年、川越市に「川越救急クリニック」を開いた上原淳院長はこう話す。

 「昨年、うちに来る患者が他で断られた回数は10回ぐらいまで減っていましたが、新型コロナの流行で、発熱患者の場合、20回が珍しくなくなっている」

川越救急クリニックの上原淳院長。ゴーグルとガウンは医療用がないため工業用で代用している(筆者撮影)
 上原院長は、麻酔科医として病院の手術も手伝うため、病院側の事情もわかる。救急で発熱患者が運び込まれても、PCR検査はすぐにはできないため、新型コロナに感染している前提で治療する必要がある。他の入院患者にうつらないように部屋を別にして、医師らもガウンやフェイスシールドなど、感染防護具を身につけなければならない。防護具は原則として患者ごとに使い捨てる必要があるが、いまは病院でも不足している。

 感染者を入院させると、ほかの入院患者と別にしなければならず、スタッフの負担は重くなる。院内感染がわかって、外来や手術を中止する病院も数多く出ている。また、新型コロナにばかり注目が集まっているが、ほかの病気が待ってはくれるわけではない。日本の医療者は過重労働が当たり前になっており、余裕はない。新型コロナに向き合う医療機関は、多くのことを後回しにしているのが現状なのだ。

 こうした状況のなか、埼玉県ではPCR検査で陽性と判定され、自宅で入院を待っていた患者2人が相次いで亡くなった。上原院長は「埼玉県は病院不足でベッドが追いつかない。たらい回しと同じ構図です」と指摘する。

感染者の把握が少なすぎる

 こうした状況は埼玉県だけの問題ではない。陽性者が各地で急増しているため、程度の差こそあれ、全国にも広がっている。

・・・ログインして読む
(残り:約1909文字/本文:約3451文字)