メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

検査と隔離で「命と経済を救う」渋谷教授提案を生かせるか

コロナ恐慌の出口戦略は検査拡大から

小此木潔 上智大学教授(政策ジャーナリズム論)、元朝日新聞論説委員

 緊急事態宣言からの出口戦略について議論が出てきた。しかし、外出や営業自粛の要請を解除する条件は定まっていない。新型コロナウイルスとのたたかいは長期戦が避けられない見通しである以上、国民の納得と協力が得られるよう、解除の目安やそれを支える論理、判断基準となる正確なデータの開示が求められる。

 やりようによっては、「ステイ・ホーム」戦略の繰り返しを回避しつつ生活や経済を正常化へ復帰させながらコロナと戦い続ける新しい戦法が展望できる。この点で注目すべきは世界保健機関(WHO)事務局長の上級顧問で英国のキングス・カレッジ・ロンドン教授の渋谷健司氏の「出口戦略の1丁目1番地はPCR検査の徹底」という発言だ。

 コロナ問題を長期にわたってとりあげ、問題点の指摘や政策提言などをしてきたテレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」で語ったもので、検査と隔離が命を守り経済再生につながることを強調している。政府がこのような提案をきちんと受け止め、生かせるか、に筆者は注目したい。

「命と経済を守る、PCR検査は出口戦略の1丁目1番地」

 5月7日のテレビ朝日の羽鳥慎一モーニングショーにロンドンからオンライン出演した渋谷教授は「緊急事態宣言の出口戦略のためにも、無症状の人も含めてPCR検査ができるように徹底すべきだ」と述べた。今後は感染の第二波、第三波が襲うたびに外出自粛を繰り返せば、経済への打撃が大きすぎる。だから、それを防ぐためには徹底的な検査で感染者を隔離することが重要であると述べた。

拡大7日の羽鳥慎一モーニングショーにオンライン出演した渋谷健司教授=テレビ朝日画面から

 渋谷氏は、日本の状況について、羽鳥キャスターの質問に答えて、まず日本の現状をこう述べた。

 「緊急事態宣言でかなり効果が出ていると思いますが、市中に感染者が多くいる状況で早期に解除するとまた感染が戻るということに気を付ないといけないと思います」

 羽鳥キャスターがパネルで、渋谷教授が「PCR検査を増やして感染症拡大の一つである無症状感染者を把握することが必要」「極端な言い方かもしれないが、今こそ国民全員にPCR検査を」という意見であると紹介。渋谷氏は以下のように語った。

 「これはまあ、できるだけ緊急事態宣言やロックダウンということを防ぐためのひとつの案ということでイギリスで提案されていることを(日本に)提案してみたということです。やはり緊急事態宣言は社会に対して大きなコストとなりますので、できるだけそれを防ぐためには検査を広げていくことが必要です。できるだけ検査を拡大して、検査と隔離という原則を徹底するということが緊急事態宣言の解除、あるいは出口戦略の1丁目1番地だと思っています」

 さらに、次のようにも語った。

 「ウイルスの特徴を知れば知るほど、潜伏期間が長い、それから症状がない、あるいは軽症の方が非常に多いわけですよね。そうした方が市中で感染させてしまっていることを考えた時に、やはり症状がある方だけでは(感染拡大を)止めることが難しいということがわかってきたわけですね。フェーズが変わって今みたいに市中感染が多い場合にはクラスター対策から転換していく必要があると思うわけです」 

 「ロックダウン、都市封鎖したい国はないんですね。非常に社会経済が傷むので。今後は繰り返しロックダウンということが言われているんですけれども、僕の友人たちを含むイギリスの学者たち30人が連名で出した国民全員にPCR検査を求める提言も、ひとつのモチベーションはできるだけロックダウンを避けようと。そのために社会を回すためにできるだけ人にうつさないようにして医療者を守り、そして社会を回す、そのひとつの手段として提案されているのです」

 「出口戦略で一番にやるべきことは、圧倒的にPCR検査を増やすということです」

 「これはもう医療だけではなくて、社会と経済の問題なので、命か経済かということよりも、命と経済の両方を守るということをしていかないとほんとに社会が厳しいものになると思います」

 「日本は、国がやると決めればできるはずです」

 世界の国々は検査体制を確立した。今後の感染の波にも徹底検査と隔離で対処していくだろう。社会生活を取り戻し、経済を復活させるにはその大前提として徹底した検査が不可欠だ。しかし日本は、それができていない。やろうとすれば、今からでもできる。いいかげんにそのことに気づいてほしい、というのが渋谷教授の指摘である。

 渋谷教授は「国民全員にPCR検査を」と呼びかけているが、それがすぐに実現しなくても、パイロット事業的に東京都内のどこかの区で実施することで正確なデータはとれるとも述べた。

 新型コロナとの戦いはワクチンが普及するまで予断を許さず、その後もウイルスの変化などで感染が繰り返され長期化するとの見方が世界ではかなり有力だ。外出制限の繰り返しが長期化すればコロナ恐慌はますます悪化して世界経済は崩壊しかねない。だからこそPCR検査の徹底で新たな展望を切り拓くべきだという考えはきわめて妥当なものだろう。

 渋谷教授の提案を受けて8日の羽鳥慎一モーニングショーで岡田晴恵・白鴎大学教授は、「大都市ではパイロット的にたとえば東京では区を2-3個選んでPCR検査で市中感染率を出し、政策判断に活用すべきだ」と述べた。現在のようにきわめて限られた検査数で判断するには無意味で、危うすぎるというのである。新規感染者がいくら減っても緩めれば一気に拡大する。市中感染率を調べて判断する必要があるというわけだ。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

小此木潔

小此木潔(おこのぎ・きよし) 上智大学教授(政策ジャーナリズム論)、元朝日新聞論説委員

上智大学教授。群馬県生まれ。1975年朝日新聞入社。富山、奈良、大阪、ニューヨーク、静岡、東京で記者をしてきた。近年は日本の経済政策や世界金融危機など取材。2009年5月から東京本社論説委員室勤務、11年4月からは編集委員も務め、14年4月から現職。著書に「財政構造改革」「消費税をどうするか」(いずれも岩波新書)、「デフレ論争のABC」(岩波ブックレット)。

小此木潔の記事

もっと見る