2.議論のきっかけは特別定額給付の位置づけ
慎重に議論すべきは、国民全員に10万円を給付する特別定額給付金の今後のあり方だ。
政府はこの給付金の趣旨を、緊急事態宣言の下で「人々が連帯して一致団結し国難を克服するための家計への支援策」と説明している。経済対策ではなく連帯への支援という位置づけだが、政治の世界ではさらなる継続議論も出始めている。また後述するベーシックインカムにつなげていくべきだという議論さえ聞こえてくる。
一方、G7諸国の対策を見ると、所得制限を設けず国民全員に一律給付するという政策は見当たらない。英米も国民への給付は行っているが、対象は低所得者に絞っている。
わが国は、番号を活用したセーフティーネットのデジタル化が大きく遅れていて、給付に所得制限を付すことができないことが理由とされているが、わが国特有の全員平等主義に政治が安易にのっかかっているだけとも思われる。
今後も所得制限のない給付を継続していくことについては、立ち止まって冷静に考えるべきではなかろうか。
3.ベーシックインカムの議論
前述のように、定額給付金をベーシックインカムにつなげていくべきだという議論が出始めている。これまで新自由主義を掲げて現実に政治を動かしてきたタレントや学者が、今こそベーシックインカムと節操なく吹聴し始めている。欧米でも、コロナ禍を契機に、ベーシックインカムの議論が始まっている。
この制度は、無条件で(働いているかどうか、資産を持っているかどうかにかかわらず)国民全員に、最低限の生活ができるような水準の(例えば毎月10万円程度)現金を給するもので、勤労モラルへの影響と財源という議論すべき2つの大きな課題がある。
フィンランドは2017年から2018年にかけて社会実験を行った。25歳から58歳までの合計2000人の失業者が、無条件で毎月560ユーロの支払いを受けた結果が公表されている。報告書では、「雇用効果は小さい。より良い経済的安全保障と精神的健康は確認された」とサマライズされているが、実験には財源問題は考慮されていない。ユーチューブで報告書の概要を知ることができる。
単純に考えて、最低限の生活が保障されれば、コロナウイルスに感染されるリスクの高い運搬やごみ処理の仕事は誰がするのだろうか、という疑問がわいてくる。

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