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コロナ禍の今こそ「ポジティブな廃業」に導く「令和の徳政令」を!

未曾有の事態を乗り切る最大の課題は「日本経済の若返り」だ

川原慎一 事業再生コンサルタント

 コロナ下の経済では、緊急事態が解除されても、市場には不良債権の山とニューマネーへの渇望が待っている。

 国の資金繰り支援は、売上高の下落率に沿って「特別貸付、危機対応融資」「無利子融資」「無担保融資」「納税猶予(法人税、消費税、固定資産税の1年間猶予)」「持続化給付金」等、何段階にも特例が設けられた。当然のことながら、これらは「事業継続」を前提とした緊急支援制度だ。

 だが今回の未曾有の事態を乗り切る最大の課題は、「日本経済の若返り」だと筆者は考える。

 コロナ前から、日本経済の法人数の9割、従業員数の7割を抱える中小企業では、経営者の平均年齢は70歳に近く、事業承継が最大の課題だった。

 だが多くの企業では、継承者の不在や、事業自体の不安定さから「これでは引き継げない、まだなんとかやれる、がんばる」と老経営者が奮闘しているケースが少なくない。「外圧がないと変われない」日本人の体質そのものが、中小企業の「新陳代謝」を阻んできたのだ。

 今回のコロナは、その「外圧」以外の何者でもない。まさにいまが事業継承の千載一遇のチャンス。ここで一気に日本経済が若返るチャンスだ。

 そこで必要なのが、廃業をソフトランディングさせるための「徳政令」だ。

 歴史的に見ても、未曽有の経済危機には必ず「徳政令」の発令がある。

 日本の中世、鎌倉時代から室町時代にかけて、朝廷・幕府などが土倉などの債権者・金融業者に対して、債権放棄(債務免除)を命じた法令である。

 最近では、2009年発令の「金融円滑化法」もその一つと言える。この時は、現状の債務を一旦棚上げして返済を猶予し、企業の資金繰りを改善した(所謂リスケジュール)。金融機関には、返済猶予しても債務者区分を引き下げなくてもいい(引当金を積む必要がない)という特例が出された。

 コロナ前の状況では、全中小企業の4割がこの特例を利用しているというデータもある。しかしこれらの特例はあくまでも事業継続のためのものであり、産業構造の若返りには繋がらない。

 今回、事業をポジティブに廃業させるための「令和版徳政令」にはどんな内容が求められるのか?

 時代と状況に合った工夫を検証してみる。

Zephyr_p/Shutterstock.com

コロナ禍を利用して、廃業へのソフトランディングを試みる

 私が10年来事業再生のお手伝いしている飲食店4店舗を経営する社長(Aさん)から、4月初旬に「相談したいことがある」という電話があった。コロナ禍による「休業要請」が飲食業を直撃している状況にあり、苦悩するAさんの顔を見る覚悟だったが、さっそく会ってみると意外にさわやかな笑顔だった。

 Aさんは開口一番、「いやー参りました。これでは廃業しかないです」という。相談内容は悲惨だが、その表情には微塵の迷いもない。

 Aさんはかつて10店舗ほどの店舗を経営していた。リーマンショックの前後から不採算店舗がではじめ、黒字店舗の売り上げを伸ばしつつ赤字店の閉店と、過剰な債務については銀行交渉を続けて、かれこれ10年間私的再生で事業を継続してきた。Aさん自身も70歳を超えたところに、今回のコロナ禍がやってきたのだ。

 これまでは幾多の経営の山谷を乗り越えてきた経営の「強者」だが、今回の「需要も供給も溶けてしまう」コロナ禍は、かつてない致命的なダメージをAさんにもたらした。

 Aさんはこういった。

 「コロナで自粛要請がでるまえから、残存店舗売却のために動いていました。その目処が立ち、休業の間の従業員への給与支払いもできそうです。ここで新しいオーナーにバトンを渡すのもいいなと決断しました」

 そこで、自らはリタイヤし、ソフトランディングでの廃業を決意したそうだ。

Corona Borealis Studio/Shutterstock.com

事業承継を断行するチャンスに

 前述した通り、日本経済では、コロナ以前から「事業承継」は大きな課題だった。

 最近のデータでは、中規模経営者の平均年齢は67.7歳、小規模事業では70.5歳。2020年を境に団塊の世代の経営者数十万人が引退の時期を迎えると言われていた。

 経営者の年齢が上がれば上がるほど、投資意欲の低下やリスク回避傾向は強まる。市場全体の活力を増強する意味でも、事業承継をして新陳代謝を計ることは日本経済全体においても必須課題だったのだ。ましてwithコロナという、誰も経験したことのない経済状況では、何よりも若々しい「エンジン」が必須となる。

 私とAさんの間で以前から話されていた「引退=事業承継」は、いまこそ大きなテーマなのだ。

 事業再生の実務家としての経験から、「廃業のソフトランディング」のための条件は、以下3つとなる。

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