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種苗法改正、ネットで拡散する反対論への反論

種子会社が法外な種子代を要求して農業を支配しているわけではない

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

遺伝子組換農作物の実態

 遺伝子組換農作物に反対が強いようだが、各国とも安全と判定したものしか生産・流通を認めていない。違いは表示規制だけである。しかも、かつては表示規制に反対してきたアメリカも、日本と同様の規制を採用するようになってきた。

 また、遺伝子組換農作物の販売者としてやり玉に挙げられるモンサントも、家畜のエサや食用油採取のために生産され、欧米ではほとんど食用に向けられないトウモロコシや大豆(欧米では、大豆は食用ではなくヒマワリの種や菜種と同じく油の原料であり、穀物ではなく油糧種子oilseedsと分類される)について、遺伝子組換えを行ってきた。

 遺伝子組換えに反対が少ないアメリカにおいてさえ、食用の割合が高い米や小麦には、消費者の反感を考慮して開発を控えてきた。かりにモンサントが参入したとしても、種子法が対象とする米や小麦の遺伝子を組換えるとは考えられない。というより絶対にしない。

 また、消費者のアレルギーが強い中で、法的には可能でも、日本の生産者が遺伝子組換農作物を作付けするとは思えない。これまでも生産者は遺伝子組換大豆を作付けできるのに、してこなかった。今後もしないだろう。遺伝子組換大豆使用の納豆や豆腐を日本の消費者は買わないからだ。

 ただし、意外に思われるかもしれないが、エサ用として遺伝子組換トウモロコシが15百万トン、食用油用として遺伝子組換大豆3百万トン、遺伝子組換菜種2百万トンが、輸入され、我々は既に遺伝子組換農作物を摂取している。豆腐と違い、加工度が高い油になると、DNAが残らないので、遺伝子組換大豆使用という表示を行う必要はないから、我々は気づかないできただけだ。

拡大Meryll/Shutterstock.com

 そもそも、それほど主食として米が重要なら、なぜ米価を上げて米の需要を減らして外麦の需要を増やし、さらには高米価維持のために半世紀以上も減反を行い、米と水田農業を徹底的に苛め抜いたのか。これを行ったのは、ほかならぬ農業界と与野党の国会議員たちではないか。(『農業破れて農協あり/食料安全保障を脅かす「減反・米価維持」』参照)

 食料安全保障というが、戦前減反に反対したのは陸軍省だった。減反を推進してきた人たちは、食料安全保障という言葉を口にすべきではない。

種子法廃止の必要性?

 誤解があるのかもしれないが、種子法廃止で国や都道府県の品種改良や種子の供給が否定されたわけではない。従来通りと考えてよい。実際には、種子法廃止後、同法と同旨の条例を作った自治体も少なくない。国や都道府県に加えて民間の努力が加われば、品種改良はさらに進展する。

 ただし、そうなら、あえて種子法を廃止する必要はなかった。この法律があっても、民間で優良な米品種が作られ、普及している例を知っているからだ。

 民間の品種開発意欲を阻害している理由として、農水省は「民間の開発品種で都道府県の奨励品種に指定されているものはない」と言う。しかし、三井化学が開発したミツヒカリという品種は、収量(生産性)が高いため、生産減少という減反政策に反する。減反を推進している農協のほとんどは、この品種を採用しようとはしない。県の奨励品種に指定されないのは当然だ。

 いずれにしても、私の直感通り、大騒ぎして反対するような案件ではなかった。

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筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。20年東京大学公共政策大学院客員教授。「いま蘇る柳田國男の農政改革」「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

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