本書の読者がMMTを政治家に求め、MMTが政策論争の中心に来てもおかしくはない
2020年06月14日
The Deficit Myth: Modern Monetary Theory and the Birth of the People's Economy/Stephanie Kelton (著)
本書は6月9日に英語版が出版されたばかりのため翻訳版はまだ発刊されていない。
タイトルの“The Deficit Myth”が最終的にどのように訳されるか分からないが、意味としては「(財政)赤字神話」、もしくは「(公的)債務神話」というものであり、政府の財政赤字が財政破綻を招くという「神話」がいかに間違っているか、ということをMMT(現代貨幣理論)の立場から論じている。
副題の“Modern Monetary Theory and the Birth of the People's Economy”とは「MMTと民衆の経済の誕生」とでも訳せよう。MMT(現代貨幣理論)に基づいた経済政策を実行することにより、人々が抱える多様な社会問題(雇用不安、老後の資金不足、環境問題、社会基盤の強化など)が解決できるという著者の主張が凝縮したものである。
著者のステファニー・ケルトン氏(Stephanie Kelton)は現在ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校で経済と公共政策の教鞭を執る教授である。
ケルトン氏は近年経済政策の現場における風雲児となりつつあるMMT(現代貨幣理論)の主要論客の一人である。昨年7月に来日し、講演やインタビューでMMTの啓蒙を行い、大きな注目を集めた。
今までMMTに関する理論的な本は出されてきたが、本書はより多くの読者をターゲットにしており、なるべく平易な言葉でかつ難しい経済理論を避けて書かれている。
本書の狙いはMMTを精緻な理論で学ぶことではなく「アメリカや日本のように独自の通貨(ドル、円)の発行権を有する国家の財政は家計とは違い、公的債務が積み上がっても問題にならない」という多くの人にとっては「コペルニクス的転回」を学んでもらうことである。つまり国家財政に関する「神話」に対して「現実世界」では何が起きているかを説いている。
本書は全8章から成り立っているが、最初の1~6章までそれぞれの章で、一つずつの「神話」と「現実」の違いを説明している。
基本的なメッセージは第1章に書かれている、「国家の財政は家計と違い赤字を積み上げてもそれ自体で問題にはならない」というポイントに尽きる。
では何が「問題」になるかというと、「赤字」そのものではなく、生産能力を超える需要を作り出すことによりインフレが発生することである。このため第2章は主にこの「問題」としてのインフレの説明に充てている。
他にも公的部門の赤字が民間部門での黒字を作り出すことや、MMTの貿易赤字に関する考え、社会保障に対する財政不安をMMTでいかに簡単に払拭できるかなど、MMTの論者がよく主張するおなじみの理論が述べられている。
最後の二つの章では具体的にファイナンスが必要な分野を列挙し、どのように政策を実行すべきかを説いている。
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