メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

WTOは機能不全、TPPに米中を引き込め

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

WTOの裁判的な機能も停止

 WTOの紛争処理手続きは、ガット時代に比べ格段に強化された。アメリカはEUの輸出補助金を是正できなかったことから、ウルグアイ・ラウンド交渉で紛争処理手続きの改善に努めたからである。

 ガット時代は一国でも反対するとパネル(裁判のようなもの)の判断はガット加盟国によって採択されないという問題があった。このため、一国でも賛成すると採択されるという仕組みに変更した。勝訴した国は当然賛成するので、間違いなく採択されることになる。さらに、パネルの上に上級委員会を加え、二審制にした。

 これによって、WTOの紛争処理手続きは、新しいルールが作られない中でも、しっかり機能してきた。WTO諸協定を解釈する国際経済法学者は、交渉は進まないが、紛争処理手続きは着実に実績を上げていると誇らしげに語っていた。

 しかし、ルールが古いままなので、解釈によって、ルールが作られないことを補おうとする動きが見られるようになった。裁判所が法律を創造するような解釈を行ったのである。また、法律家による協定の文言に従った解釈と、交渉に当たった国の意図が、一致しないような場合も見られるようになった。交渉者が各国の対立する利害を調整して作った、政治的、妥協的な文言が、法律家によって交渉当事者の意図とは異なるように解釈されるのは、ある程度仕方がないことかもしれない。

 アメリカは、こうした判断によって思ったような結論が出されないことに、いらだつようになった。また、最終的な判断が出されるまで時間がかかる過ぎることにもアメリカは不満をもった。こうして内容と手続きの両面で紛争処理手続きに批判的となったアメリカは、上級委員会の委員の任命を拒むようになった。現在、上級委員会には少なくとも3名の委員が必要なのに委員は1名であり、事実上裁判的な機能も停止してしまっている。日本で言うと、地方裁判所はあるのに、上級審である高裁や最高裁がないという状態である。

・・・ログインして読む
(残り:約3249文字/本文:約6096文字)

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


関連記事

筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。20年東京大学公共政策大学院客員教授。「いま蘇る柳田國男の農政改革」「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

山下一仁の記事

もっと見る