コロナだけじゃない。チリやEU、コンビニに負けない日本ワインを守るのは私たち次第
2020年06月23日
5月の上旬あたりから、「飲食店に先にきていたダメージがワイナリーまできて大変な状況だ」という声が、地元のワイナリーから聞こえてきました。5月末に緊急事態宣言は解除されましたが、まちへの人の戻りは鈍く、私のお店の売り上げも昨年の半分も戻ってきません。ようやく日本のワイン文化の広がりを実感できるようになってきた「ワイン県やまなし」。そこにあるワイナリーで、今、何が起きているのか、報告します。
新型コロナウイルス感染症に翻弄(ほんろう)されながら、気がつけばすでに今年の半分がすぎてしまいました。
山梨県甲府市で小さなお店を経営し、「ワインツーリズム(R)」を立ち上げて、地域を少しでも自分たちの望む姿にしていこうという活動を仲間とともに10年以上続けてきた経緯から、自分たちのまちや地域の実情をお伝えできたらと前回、「論座」に寄稿させていただいたのが3月でした。その時点では、お店の3月、4月の予約がすべてキャンセルになっている状況でした。
前回の寄稿「新型コロナの自粛で街が沈む『炭坑のカナリア』と化した飲食店オーナーの声」
3月の中旬までは、「飲んで応援」や「食べて応援」といった気運があり、お店の売り上げ自体への影響は、後から考えれば軽微なものでした。4月になるとお店の売り上げは前年比約90%減少しました。想像以上に衝撃でした。みなさんのお給料が突然一桁下がってしまったことを想像していただくと、衝撃度が少し伝わるかもしれません。
まちから人が消えてしまったこの間は、売り上げがほとんどなく、一体いつまでお店がもつのか常に不安でした。お店を存続させるために、限定の酒販免許の申請、持続化給付金、雇用調整助成金、金融機関からの借り入れなどの手続きに追われました。どうしても不慣れなことと、複雑な手続きのものもあり、かなり時間をとられましたが、休業させているスタッフの生活のことなどを考え、できることはすべてやってあげたいと思っていました。
15年ほど前から山梨県産ワイン専門で提供している私のお店で、過去これほど山梨県産のワインが動かなかったことはありません。まちから人が消え、お店にお客さんが来ないということもありますが、日々何本もあけていたワインがここまで動かなくなると、当然ですが酒屋やワイナリーに仕入れに行くことができなくなります。飲食店から酒屋、そしてワイナリーへと影響の連鎖が、日本ワインを取り扱う全国のお店で発生するようになりました。
山梨県のワイナリーは、東京の飲食店への出荷の割合も高く、海外に輸出しているところもあります。しかし、それらの需要は当分見込めません。これまで何年もかけて構築してきた販路が一気に停止している状況なのです。
山梨のワイナリーといってもひとくくりにすることはできません。飲食店が大手チェーン店や家族と従業員で営業するお店、個人が独りで営業するお店など経営形態が様々なように、ワイナリーも様々です。大手資本のワイナリー、地元資本で家族を中心に何人も従業員を抱えるワイナリー、夫婦で営むワイナリーなど多様です。
営業形態も、品質を高めしっかりとブランディングして都内のレストランに卸しているワイナリーや、テーブルワインとして地元スーパーなどの量販店にも卸しているワイナリー、そしてワインだけでなく観光ブドウ園を併設するワイナリーなどもあります。
今回の新型コロナウイルスによる影響をワイナリーに聞いてみると、主に都内のレストランを売り上げの中心にしているところに大きな影響が出ているようです。スーパーなどの量販にも卸していたワイナリーには、巣ごもり消費の恩恵を受けてトータルの売り上げに甚大といえるほどまでは影響が出ていないところもあります。また、小さなワイナリーでは、そもそもの出荷量が少ないため、個人の買い支えによって飲食店の減少分を少しカバーできたところもあります。
しかし、総じて多くのワイナリーが大きな影響を受けており、不安を抱えながら、ともかくお金を借りる、持続化給付金や雇用調整助成金を得るなどして存続の道を探っている厳しい状況だという声が挙がってきています。
「そもそも設備投資して借り入れが多いところも多い。年内こんな調子なら多くのワイナリーが潰れる」
こんな声が山梨のワイナリーから聞こえてきます。山梨のワイナリーの基本はやはり家族経営ですが、今回特に家族を中心にして従業員を何人も抱えているところが、とても厳しい状況になっています。
山梨を代表するようなワイナリーもこうした経営形態に含まれ、地元のブドウである「甲州種」からつくられる白ワインを多く生産しています。何年もかけて「甲州種」の白ワインの品質を上げて特化させ、少しずつ単価も上げて、都内の飲食店への出荷量も増え、海外にも毎年出荷できるようになってきている状況でした。
しかし、今回の新型コロナウイルスの影響で、都内の飲食店は軒並み休業となり、海外への輸出もストップし、地元の品種「甲州種」を支えてきたこうした経営形態のワイナリーが大きな打撃を受けています。
「なすすべがないからオンラインしかない」というワイナリーが多い状況ですが、ある程度の経営規模があるワイナリーでは、ネット注文などの通信販売による個人の応援消費だけでは、飲食店が休業して減少した分の補てんには及びません。また、この時期にある商談会や試飲会をはじめとした各種イベントもなくなっているので、一層厳しい状況となっています。もちろんこうした状況は地元資本のワイナリーだけでなく、大手資本のワイナリーも同様です。
6月に入ると家族だけの小さなワイナリーからもかなり厳しい状況であるという声が聞こえるようになってきました。山梨の何社かのワイナリーにお話を聞くと、良いところで前年比売り上げ40〜50%減、悪いところだと80%減というお話でした。
山梨においてワインは地場産業です。山が多く平地が少なくお米がたくさんつくれない中で、単価の高い農業のために桑を栽培し養蚕をして絹を生み出していた時代がありました。山梨のワインは絹の時代が終わり、桑畑からブドウ畑に転換することによって盛んになりました。
第1次産業であるブドウ栽培と、第2次産業であるワイン醸造、そして近年、私たちがつくり続けてきたワイン提供やワイン販売、そしてワインツーリズムなどの第3次産業と多くの事業者がつながっています。一本のワインに多くの県民が関わっているのです。だからこそ、その根本たる「甲州種」を使った白ワインが動かないことが、地域に大きな影響を及ぼす可能性があるのです。
山梨のワインづくりの構造としては、周辺のブドウ農家のブドウをワイナリーが購入してワインにするという形態が今でも基本的な形であり、数多くみられます。それゆえ、新型コロナウイルスの影響でワインが売れなければ、必然的に農家への影響があるのではないか、と心配されるのです。
「ブドウを購入する資金は大丈夫なのだろうか?」
「売れないために瓶詰めしないとタンクが空かないので、今年の仕込みが減るのではないか?」
こういった心配する声が実際に聞こえてきます。
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