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財務省に異変! 安倍官邸に付き従う主計局長に批判噴出

最強官庁でいま、若手はやる気を失い、幹部は無力感にさいなまれている

原真人 朝日新聞 編集委員

 財務省といえば「官庁の中の官庁」といわれ、国家の財布のひもを握る最強官庁である。その超エリート集団がいま「危機」に瀕している。

 一昔前の財務省は、国の財政を脅かすことなら、時の政権だろうと、与党の大物政治家だろうと、言わねばならぬことを言い、拒まねばならぬことは拒んでいた。それが国家の屋台骨を支える財政当局としての責務だと組織の誰もが信じていた。

 ところが、第2次安倍政権の7年半でそのありようは大きく変わってしまった。とくに、ここ1~2年は、官邸主導の予算バラマキ路線に主計局が積極的に手を貸す事例が目立っている。

 新型コロナウイルス感染防止のための1次補正、2次補正の予算編成をめぐっては、いくつかの予算項目のあまりの放漫ぶりに、省内やOBから批判が噴出している。

 財務省一家にいま何が起きているのか。

拡大国会答弁に立つ財務省理財局長時代の太田充・現主計局長(右)。左は麻生太郎財務相=2018年4月18日

批判高まるコロナ補正予算

 新型コロナウイルスの感染拡大を防止し、落ち込んだ経済生活の底支えをするため、安倍内閣は大型対策を打ち出した。4月末に成立した2020年度予算の第1次補正で25.7兆円、6月12日に成立した第2次補正で31.9兆円。合計約57兆円の補正予算を組んだ。

 この財源はすべて新たな国債発行で捻出する。事業費総額は234兆円。安倍晋三首相は記者会見でこれが「空前絶後」「世界最大」だと誇った。

 とはいえ、どれだけ巨大でも、この補正予算には多くの批判の声がつきまとう。

 たとえば1次補正では通称「アベノマスク」が批判対象になった。配布スピードが遅く、経産省などの発注手続きの疑惑も指摘された。ようやく配布が始まったときにはすでに世の中に市販マスクが出回っており、そもそも必要だったのかと指摘されている。

 「Go Toキャンペーン事業」と名づけられた観光・飲食振興策には約1.7兆円もの巨額予算が計上されたが、これも世間のニーズとずれていた。外出自粛や休業要請が続くなかで観光振興の予算など執行できるはずがない。つまり不要不急なのに、なぜか医療への支援予算より手厚くなった。医療現場では人手も資材も不足し、悲鳴があがっていた。どれもチグハグだ。

 Go Toキャンペーンや持続化給付金の給付事業をめぐっては、その後、経産省と電通など事業者側との間で不可解な取引契約、巨額のサヤ抜きの疑いがあることも明らかになった。現在もその疑惑は晴れていない。

 2次補正では10兆円という大規模な予備費が計上されたことが問題になった。通常なら1会計年度の予備費はせいぜい数千億円だ。危機対応とはいえ、けた違いの予算額が設けられた。野党からは「安倍政権に巨額予算を白紙委任しろということか」「国会軽視だ」と批判が相次いだ。

 大方の見方は、前東京高検検事長の人事をめぐって野党から追及を受けていた政権が、さらに問題が長引くことを恐れ、早く国会を閉じるための措置だったのではないか、というものだ。つまり、もし3次補正予算が必要になっても、これだけ予備費が十分にあれば、国会に諮る必要はなくなるからである。

 こうした問題歳出項目には経済産業省がからむことが多かった。なぜそうなのか。財務省はなぜ査定であっさり通してしまったのか。

 それは、今回の補正予算が官邸官僚―財務省主計局首脳ラインを中心に編成されたことと無縁ではない。


筆者

原真人

原真人(はら・まこと) 朝日新聞 編集委員

1988年に朝日新聞社に入社。経済部デスク、論説委員、書評委員、朝刊の当番編集長などを経て、現在は経済分野を担当する編集委員。コラム「多事奏論」を執筆中。著書に『日本銀行「失敗の本質」』(小学館新書)、『日本「一発屋」論 バブル・成長信仰・アベノミクス』(朝日新書)、『経済ニュースの裏読み深読み』(朝日新聞出版)。共著に『失われた〈20年〉』(岩波書店)、「不安大国ニッポン」(朝日新聞出版)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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