企業と日本社会はどう応えるべきなのか
2020年08月02日
これから時代の中心となっていくミレニアル世代(1983年~1994年生まれ、おおよそ現在の26~37歳)とZ世代(1995年~2003年生まれ、おおよそ現在の17~25歳)は、インターネット環境が整ったころに育った最初の世代で、これまでの世代とは大きく価値観が異なると言われる。
その働き方や仕事観の特徴としては、よく下記のようなものが挙げられる。
・プライベートも重視する
・転職活動に対して抵抗がない
・働き方に柔軟性を求める
・起業やフリーランスなどの独立意識が高い
特に日本においては、長時間労働や年功序列、男尊女卑が根強く残る職場がいまだに多いことから、ワークライフバランスやフラットさを重視している若者が多い。
実際、デロイトトーマツグループが毎年実施している、「ミレニアル年次調査2020年版」を見てもその特徴が明らかになっている。
グローバルでは、ミレニアル世代の働くモチベーションとして、「仕事の内容」(72%)に次ぎ、「同僚」(70%)、「職場環境」(66%)、「チームワークやコラボレーション」(66%)といった自分の周囲を挙げる傾向が見られた。
一方、日本では「自分らしく働ける職場風土・インクルーシブネス」(48%)、「ワークライフバランス」(48%)が上位。個に重きを置く傾向が見られ、「仕事の内容」は4位となった。
参加者募集 8月3日開催オンラインイベント「どうするコロナ時代のシューカツ・働き方」
また、HR総研が2020年6月に「楽天みん就」と共同で、2021年卒学生に対して行ったアンケート調査結果でも、9割近くが働き方改革の取り組み状況が「気になる」としており、働き方改革を放置していては学生に選ばれない時代が到来しつつある。
コロナ禍の就職活動においても、すぐさまコロナに対応した企業とそれ以外では、学生からの評価は大きく分かれており、働き方に関しても同様の姿勢が求められている。
「オンライン化への対応が遅い、またはコロナの影響下でも対面を求めてくる企業に対しては志望度が下がった」(文系・早慶大クラス)
(※ 同アンケート調査の結果から引用)
また、単なる「掛け声」ではなく、具体的な数字を確認しており、制度の有無、制度の中身、実際の利用率、そして育休後の復帰率で企業の良否を判断している。
学生が企業に期待するものとして、下記が挙げられた。
「くるみんマークを取得している」(文系・その他私立大)
「くるみんマーク。女性でも長く働けるから」(文系・上位私立大)
「くるみんマーク、えるぼしマークの取得」(理系・中堅私立大)
「育休後の復帰率が高い」(理系・上位国公立大)
「育休制度の充実」(文系・中堅私立大)
「会社の近くに託児所がある」(文系・中堅私立大)
「残業時間を減らす取り組み」(文系・早慶大クラス)
「有休の平均取得日数が高い会社や有休日数、月の残業時間をしっかりと説明してくれる企業は印象がよかった」(理系・その他私立大)
(※ くるみんマークとは国から「子育てをサポートする働きやすい企業」と認定された証。えるぼしマークも同じく女性活躍推進に関する状況などが優良な企業に発行される認定マーク)
こうした若者からの「ニーズ」にどう企業は応えていくべきか。
キーワードは「自律性」である。
これまで「メンバーシップ型」雇用の象徴になっていた、強制的なジョブローテーションや転勤、消化できない有給制度・男性の育休制度を取り止め、自律的に選択できるよう制度を抜本的に見直していくことだ。
今回、コロナ禍によって半強制的にリモートワークの導入が進んだが、今後はリモートワークも「選択」できる働き方が求められていくだろう。
そしてそれを実現するためには、客観的に評価できるための「成果主義」導入や「ジョブ・ディスクリプション(職務記述書)」の明確化、つまり「ジョブ型」への移行が重要になってくる。
ただ、「成果主義」を導入すると言っても、これまでの「成果主義」は、年功序列を前提とした右肩上がりの給与を引き下げる手段として導入されてきた側面が強いが、今後は適正な評価のためのツールになるよう注視が必要である。ここ20年間、先進国で日本だけが給与水準が上がっていないことを考えると、基本的には引き上げていかなければ日本の競争力は下がる一方であろう。
一方で、若者側にも、今後は自律的なキャリア選択、スキルアップが求められていくことになる。
現状では、受動的なキャリア選択や、キャリア教育が不足していることから、今後必要なスキルに対しての感度が非常に低いが、今後は「自分は何のプロフェッショナルなのか(になりたいのか)」、「それにはどんなスキルが必要なのか」、自ら考え身につけていく努力をしなければならない。
もちろん、大学・大学院の家計負担軽減、リカレント教育の拡充といった企業外のスキル構築の機会の充実が必要である。
しかし、こうした制度変更だけでは本当の意味での「ジョブ型」への移行は実現できない。
これまでの日本企業社会は、上下関係などの人間関係や勤務時間といった、およそ仕事内容とは関係のない、表面的な部分で評価されてきたところが非常に大きいからである。
真に「ジョブ型」へ移行するためには、これまで「性別」や「年齢」を重視してきた日本文化からの脱却、男尊女卑や父権主義(パターナリズム)の見直しが求められる。
もっと仕事の成果や専門性といった本質的な部分に目を向けるようにならなければ、「ハンコ」からの脱却さえ難しいかもしれない。
つまり、「ジョブ型」への移行というのは、日本社会全体の見直しであり、一つの会社内で収まる話ではない。
はたしてコロナ禍を機に、日本は変われるのか。
日本全体が試されている。
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください