メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

「環境にやさしいプラスチック」の開発・普及を急げ!

「モラル頼み」では解決しない。「バイオマスプラ」「生分解性プラ」が決め手

木代泰之 経済・科学ジャーナリスト

 レジ袋の有料化を機に、プラスチック削減に向けた国民意識が高まっている。

 しかし、プラ全体に占めるレジ袋の比率は2%にすぎない。石油から作られる現在のプラは、生活を豊かにする半面、大半は燃やされて二酸化炭素(CO2)を排出。また土中に埋められたり、ポイ捨てされたりして環境を汚染する。

海洋を漂うプラごみ=日本バイオプラスチック協会HPより

年間600万トン超を焼却してCO2を排出

 この問題の解決を人のモラルに依存していては未来永劫、解決しない。プラと地球環境の問題は、プラの大量生産が始まった約60年前から提起されてきたが、経済成長や便利さ追求のためにずっと脇に追いやられてきたからだ。

 「バイオマスプラスチック」と「生分解性プラスチック」を説明する前に、日本のプラ利用の現状を見ておこう。プラの生産量は年間1012万トン(2017年)で、99%は石油が原料である。下の円グラフは、その処理方法の割合を示している。

 一番多いのは、熱エネルギー回収(青)の524万トンで、燃やして得られた熱エネルギーを発電や温水に利用する。次いで繊維やアンモニアにリサイクルする251万トン(橙)、焼却・埋め立て128万トン(灰)、環境への流出109万トン(黄)である。

 このうちプラを燃やす524万トンと128万トン(計652万トン)からはCO2が排出され、温暖化の原因になる。環境に流出する109万トンは、年月をかけて細かい破片やマイクロプラスチックになり、海洋や大気を汚染して生物の健康を損なう。

「バイオマスプラ」は木材のセルロースやミドリムシから作る

 プラ焼却による大気中のCO2増加は、植物や微生物を原料にする「バイオマスプラ」(下の表)に切り換えれば減らすことができる。

 バイオマスプラも燃やせばCO2を出すが、その炭素は元々植物が持っていたもので、光合成によって再び植物内部に吸収される。つまり炭素は再生産可能な植物とプラの間をぐるぐる回るだけなので、「カーボンニュートラル(中立)」である。

 バイオマスプラの現在の主な原料はトウモロコシのデンプンだが、これでは食糧問題と衝突する。そこで、東京大学大学院の岩田忠久教授は、木材から取り出したセルロースや、微生物のミドリムシが体内に蓄える物質を元にしたプラスチックを開発している。

 そのプラスチックは、アイロン掛けの200度を超える300~350度の高温に耐え、熱に強い繊維材料として有用だという。

「生分解性プラ」は用途別に分解速度をコントロール

 一方、プラごみによる環境汚染を防ぐには、自然界の微生物が分解してくれる「生分解性プラ」(上の表)が決め手になる。

 生分解性プラは、原料が石油でもバイオマスでも製造が可能だ。微生物はプラの分子鎖(ポリマー)を短く切断して水に溶けやすくし、それを体内に取り込んでエネルギー源にする。最終的に数か月~1年かけてCO2と水に完全分解してくれる(下の写真)。

土壌中の生分解性プラ・ボトルの変化=日本バイオプラスチック協会HPより

 実用化のポイントは、プラの用途(農業用、土木用、レジャー用など)に応じて、分解する速度をコントロールすることだ。早すぎず遅すぎず、適切なタイミングで分解しなければならない。

 岩田教授は、プラスチックの結晶が大きくて量が多いほど分解が遅くなること突き止めた。製造段階で結晶の大きさや量を制御することで、分解速度をコントロールできるという。

 さらに自分を分解する酵素(生分解スイッチ)をあらかじめプラスチックの中に埋め込んでおく技術も開発中だ。捨てられたプラが海で紫外線を浴びてひび割れができると、海水が浸み込み、スイッチがONになる仕掛けだ。

バイオマスプラも生分解性プラもコストが課題

 新しい2種類のプラの研究は日本でも欧米でも着実に進んでいる。

 ただ、これらの新しいプラは、大量生産される石油合成プラに比べてコストが高い。例えば、トウモロコシのデンプンを原料にしたバイオマスプラのレジ袋は、石油製品の3~4倍もする。

 それでもフランスは2016年からレジ袋の配布を禁止し、「使うなら生分解性プラのみ」と定めている。政治が決断すれば、コスト低減に向けて思い切った対応がとれるというお手本だ。

 日本は7月からレジ袋有料化に踏み切ったが、経産省が環境より化学業界などの経営に配慮したために、規制開始がフランスより4年遅れた。

・・・ログインして読む
(残り:約951文字/本文:約2839文字)