不思議なことに、安倍総理の突然の辞任表明という事態をうけて、国民の安倍内閣支持率は大きく上昇した。マスコミもマーケットも、経済政策としてアベノミクスの継続を望むという論調が急に多くなった。これから述べるアベノミクスの光の部分が、突然の辞任によって懐かしく認識されたのではないだろうか。
有力な後継者である菅氏は、アベノミクスを承継するという。そこで、アベノミクス7年半の光と影を評価してみたい。

台風第10号に関する関係閣僚会議で発言する安倍晋三首相。右は菅義偉官房長官=2020年9月4日、首相官邸
アベノミクスの評価
筆者のアベノミクスの評価は以下のとおりである。
政権発足当時の「3本の矢」は、わが国の経済・社会を取り巻く景色を大きく変えた。円安・株高が生じ、企業業績は回復、雇用の大幅な改善などで一定の成果を残した。
しかしその後、意図したトリクルダウン(成長と分配の好循環)は一向に生ぜず、国民の実質賃金は停滞し、中間層の高所得層と低所得層への2極分化が生じ、所得・資産格差も進んできた。
財政政策を見ると、景気回復による増収(自然増収)があれば補正予算ですべて使いきり、財政健全化目標年次は5年先送り、新型コロナ対策で財政赤字はさらに大きく積み上がり、日銀が財政ファイナンスで助けているが、リスクは日に日に増えている。また、潜在成長率の停滞、持続的な経済成長への道筋は不透明で、デフレ脱却も先が見えない。
一方、以下のとおり、評価する部分もある。
2度の延期を挟みながらも消費増税を行い、若者や勤労者の、子ども・子育て、さらには教育分野にも使途を拡充し、国民の生活を支えた。
消費増税の結果、「政府の規模」を表す国民負担率(税・社会保障負担の国⺠所得に対する割合)は政権発足時(2012年度)の39.7%から2020年度(見通し)の44.6%と、5ポイント上昇し、中規模の政府を標榜する英国の負担率(2017年、47.7%)と変わらない水準になった。政府の規模を大きくし、個人のリスクを肩代わりする政策は、若者や勤労世代に受ける「リベラルな経済政策」であった。
もう一つ、長年の懸案であった日本型雇用制度(終身雇用・年功序列賃金・企業熱労働組合)を変えるきっかけとなる「働き方改革」を行った。企業のメンタリティーを変え、残業を制限し、今日のテレワークが進む下地を作ったといえる。
このようにアベノミクスの影と光を評価したうえで、新政権の課題として、以下のことを提示したい。