ジョンソン政権によりイギリス議会に提出された法案によって、ブレグジットの行方が混乱している。
この法案は、昨年末イギリスとEUが合意した協定中の根幹部分である北アイルランドの取り扱いを反故にしようとするものである。いったん合意した協定を守らないというのは国際法違反であるとEU側は反発している。北アイルランド紛争を再燃しかねないという懸念も表明されている。イギリス国内でもブレアやメージャーなど歴代の首相経験者が反対を表明している。
ブレグジットと北アイルランド問題
もう一度、ブレグジットと北アイルランドについての関係を説明しよう。

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1960年代から90年代にかけて北アイルランドで独立派(カトリック)とイギリス残留派(プロテスタント)の間で大変な紛争が起こった。しかし、イギリスもアイルランドもEU加盟国となり、アイルランドと北アイルランドの国境検査が撤廃され、ヒトやモノが自由に移動するようになると、北アイルランドを巡る紛争は下火になった。こうして両者の間で和平合意(ベルファスト合意、別名Good Friday Agreement)が1998年に成立した。
ブレグジットとは、イギリスがEUの外に出るということなので、日本が他の国からのヒトの入国やモノの輸入に入国審査や税関審査を行っているように、アイルランドとイギリス領北アイルランドの間に再び検問所による国境管理が実施され、ヒトやモノの移動が規制される。そうなると紛争が再発するのではないかという悪夢が蘇ってきた。
離脱後にイギリスとEUが自由貿易協定を結び、関税をなくしても、国境管理は必要となる。例えば、イギリスがEUだけでなくアメリカとも自由貿易協定を結んで、アメリカ産牛肉の関税をゼロにすると、アメリカ産牛肉が関税なしでイギリスに入り、その後また関税なしでEUに入ってしまうおそれがある。これではEUの牛肉農家を保護できないので、EUはイギリスから来る牛肉はイギリス産のものでないと関税なしでの輸入は認められないとする。これが原産地証明と言われるもので、イギリス産かどうかをチェックするためには、国境管理が必要となる。
つまり、イギリスとEUが自由貿易協定を結んで関税をなくしても、国境管理は要るのだ。
北アイルランド問題を考えると国境管理はなくす方が良い。しかし、離脱した後に、北アイルランドを含むイギリスが、アイルランドを含むEUとの間で国境管理をしないということはできない。
つまり、ブレクジットと北アイルランド問題はあっちを立てればこっちが立たないという両立できないものだった。