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ボリス・ジョンソンは何を考えているのか?

山下一仁 キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

 ジョンソン政権によりイギリス議会に提出された法案によって、ブレグジットの行方が混乱している。

 この法案は、昨年末イギリスとEUが合意した協定中の根幹部分である北アイルランドの取り扱いを反故にしようとするものである。いったん合意した協定を守らないというのは国際法違反であるとEU側は反発している。北アイルランド紛争を再燃しかねないという懸念も表明されている。イギリス国内でもブレアやメージャーなど歴代の首相経験者が反対を表明している。

ブレグジットと北アイルランド問題

 もう一度、ブレグジットと北アイルランドについての関係を説明しよう。

拡大M-SUR/Shutterstock.com
 1960年代から90年代にかけて北アイルランドで独立派(カトリック)とイギリス残留派(プロテスタント)の間で大変な紛争が起こった。しかし、イギリスもアイルランドもEU加盟国となり、アイルランドと北アイルランドの国境検査が撤廃され、ヒトやモノが自由に移動するようになると、北アイルランドを巡る紛争は下火になった。こうして両者の間で和平合意(ベルファスト合意、別名Good Friday Agreement)が1998年に成立した。

 ブレグジットとは、イギリスがEUの外に出るということなので、日本が他の国からのヒトの入国やモノの輸入に入国審査や税関審査を行っているように、アイルランドとイギリス領北アイルランドの間に再び検問所による国境管理が実施され、ヒトやモノの移動が規制される。そうなると紛争が再発するのではないかという悪夢が蘇ってきた。

 離脱後にイギリスとEUが自由貿易協定を結び、関税をなくしても、国境管理は必要となる。例えば、イギリスがEUだけでなくアメリカとも自由貿易協定を結んで、アメリカ産牛肉の関税をゼロにすると、アメリカ産牛肉が関税なしでイギリスに入り、その後また関税なしでEUに入ってしまうおそれがある。これではEUの牛肉農家を保護できないので、EUはイギリスから来る牛肉はイギリス産のものでないと関税なしでの輸入は認められないとする。これが原産地証明と言われるもので、イギリス産かどうかをチェックするためには、国境管理が必要となる。

 つまり、イギリスとEUが自由貿易協定を結んで関税をなくしても、国境管理は要るのだ。

 北アイルランド問題を考えると国境管理はなくす方が良い。しかし、離脱した後に、北アイルランドを含むイギリスが、アイルランドを含むEUとの間で国境管理をしないということはできない。

 つまり、ブレクジットと北アイルランド問題はあっちを立てればこっちが立たないという両立できないものだった。


筆者

山下一仁

山下一仁(やました・かずひと) キヤノングローバル戦略研究所研究主幹

1955年岡山県笠岡市生まれ。77年東京大学法学部卒業、農林省入省。82年ミシガン大学にて応用経済学修士、行政学修士。2005年東京大学農学博士。農林水産省ガット室長、欧州連合日本政府代表部参事官、農林水産省地域振興課長、農村振興局整備部長、農村振興局次長などを歴任。08年農林水産省退職。同年経済産業研究所上席研究員。10年キヤノングローバル戦略研究所研究主幹。20年東京大学公共政策大学院客員教授。「いま蘇る柳田國男の農政改革」「フードセキュリティ」「農協の大罪」「農業ビッグバンの経済学」「企業の知恵が農業革新に挑む」「亡国農政の終焉」など著書多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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