ジョンソンの法案と北アイルランド問題
昨年末の合意とは、端的に言うと、北アイルランドとイギリス本土の間に国境を引き、北アイルランドとアイルランドの間には国境を引かない(国境管理をしない)というものだ。事実上、イギリス連合王国の中で、北アイルランドだけEUの関税同盟に残ることとなる。(具体的には、北アイルランド国境では基本的にはEUの共通関税を徴収する。イギリス本土から北アイルランドに物資が入るときは通常は関税をとらないが、そこからアイルランドに輸出されるというリスクがある指定物品については関税を徴収することにした)
ジョンソンの法案とは、このEUとの根幹部分の合意をご破算にして、北アイルランドとアイルランドの間に国境を引くというものだ。
EUや歴代のイギリス首相が怒るのも当然だろう。アメリカでも、ナンシー・ペロシ民主党下院議長は、国際的な合意を守らないこのような政権とアメリカ政府が自由貿易協定を妥結しても、アメリカ議会は承認しないと言っている。アイルランド移民の血を引くバイデン大統領候補も、ブレグジットによって国境管理が復活し、ベルファスト合意を傷つけられることに反対している。
ジョンソンは何を考えているのか?
ジョンソンの意図については、二つ推測されている。

英国の欧州連合(EU)離脱にあたり、国民向けの録画演説で「新時代の幕開け」を強調したジョンソン首相=英首相官邸提供
一つは自ら10月15日までと期限を切ったEUとの自由貿易協定交渉で、EUの譲歩を引き出そうという瀬戸際政策(brinkmanship)である。これだと自由貿易協定交渉をあきらめてはいない。
もう一つは、この交渉の中でEUがイギリスの補助金などの政策や規則をEUと同様なものとするように要求していることに反発し、独立した主権国家は産業育成などを自由に行うことができるようにすべきであると考え、自由貿易協定交渉が決裂してもよい、つまり本気でEUと縁を切ろうとしていると思っているというものだ。
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