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菅発言が火をつけた「ワーケーション」狂想曲(上)

いつの間にかインバウンド観光の損失補塡に

常見陽平 千葉商科大学国際教養部准教授 いしかわUIターン応援団長  社会格闘家

 新しい休み方、仕事とプライベートの両立方法として注目を集めるのが、ワーケーションである。

 ワーケーションは「ワーク(仕事)」と「バケーション(休暇)」を組み合わせた造語である。これまでのテレワークは、「在宅勤務」「モバイルワーク」「サテライトオフィス勤務」に分かれていた。ワーケーションはプライベートの時間に、旅行先などで好きな時間に働くことを指している。

「コロナショック」を補う観光振興策として

 この言葉が全国区となり認知度が上がったのは、2020年7月27日の菅義偉官房長官(当時)の発言だ。政府の観光戦略実行推進会議においてリゾート地、温泉地などで余暇を楽しみつつ仕事をするワーケーションの普及などについて言及した。政府としても普及に取り組むという。民放各社や全国紙が報じた。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、観光業が大変厳しい状況にあることを指摘した上でのコメントだった。

観光戦略実行推進会議で発言する菅義偉官房長官(手前から2人目)=2020年7月27日、首相官邸拡大観光戦略実行推進会議で発言する菅義偉官房長官(手前から2人目)=2020年7月27日、首相官邸

 その後、7月29日の記者会見でも、ワーケーションを含む観光振興策に言及した。観光は地方創生の切り札であり、地域の発展に影響するものだと強調した。特に具体策を述べたわけではなかったが、この言葉が官房長官の口から発せられたこと、ちょうど、観光振興策としてのGO TOトラベルキャンペーンに批判が集まっていた渦中での出来事だったこともあり注目された。

 この10数年間にわたり、日本の観光産業は訪日観光客(インバウンド)の増加による恩恵を受けていた。しかし、新型コロナウイルスショックで日本への観光目的での入国が困難な状況にあり、観光業界は危機的な状況を迎えている。これを補う策として、ワーケーションに期待が集まっている。

 政府も支援する姿勢を示している。2020年夏に内閣府は、新型コロナウイルス感染症における様々な対応・取り組みの支援を行うことを発表した。ワーケーションや人材マッチング等の新たな地域移住等の需要の取り込み支援、テレワークの導入、テレワーク用サテライトオフィスの整備支援を行う。これがワーケーション推進の追い風となる。環境省も、国立・国定公園、温泉地でのワーケーション推進を支援し、新型コロナウイルスの感染拡大により甚大な影響を受けている地域経済の活性化を目的とした補助事業を行う。


筆者

常見陽平

常見陽平(つねみようへい) 千葉商科大学国際教養部准教授 いしかわUIターン応援団長  社会格闘家

一橋大学商学部卒業、同大学大学院社会学研究科修士課程修了(社会学修士)。リクルート、バンダイ、ベンチャー企業、フリーランス活動を経て2015年より千葉商科大学国際教養学部専任講師(2020年4月より准教授)。専攻は労働社会学。執筆・講演など幅広く活動中。『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社新書)、『僕たちはガンダムのジムである』(日本経済新聞社)、『「就活」と日本社会』(NHK出版) SNS  twitter yoheitsunemi  facebook yoheitsunemi

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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