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菅発言が火をつけた「ワーケーション」狂想曲(下)

広がりを見せるのか? 私たちを豊かにするのか?

常見陽平 千葉商科大学国際教養部准教授 いしかわUIターン応援団長  社会格闘家

「休み方」の施策か? 「働き方」の取り組みか?

 菅発言が火をつけた「ワーケーション」狂想曲(上)

 ワーケーションの課題を考えてみよう。

 そもそも、この取り組みは万人に向けたものではないことを確認しておきたい。テレワーク同様、食品店の販売員や宅配業者、医療や公共交通の関係者などエッセンシャルワーカー(日常生活の維持に必要な従事者)にとっては、困難である。

 個人向けワーケーションについては、個人のプライベートな時間を侵害しているという点にも注目したい。家族全員が仕事の事情で予定をあわせにくい中、それでも旅行をしたいという家族にとっては手段の一つとなり得るだろう。ただ、個人が費用負担した旅行の時間を会社の仕事のためにとられてしまうという事実は動かない。さらには、仕事のための旅に個人負担で出かけることが現実的かどうかという問題もはらんでいる。

 私はこの取り組みについて、プレミアムフライデーとの共通点が多いと見ている。お金と時間に余裕がある大企業とその従業員中心の取り組みになるのではないか。もちろん、すべての国民を救う政策、施策は成立しづらい。ただ、プレミアムフライデーがやってくるたびにTwitterに「庶民には関係ない話」という投稿が相次ぐように、一部の人の取り組みに終わる可能性は高いと見ている。政府と、経団連企業が旗振り役となっている点も似ている。

プレミアムフライデーを盛り上げようと、取り組みに積極的な企業などが開いたイベント。石原伸晃経済再生担当相(当時、右から4人目)は「定着には時間がかかる。長い目で育ててもらいたい」と話した=2017年6月30日、東京都千代田区プレミアムフライデーを盛り上げようと、取り組みに積極的な企業などが開いたイベント。石原伸晃経済再生担当相(当時、右から4人目)は「定着には時間がかかる。長い目で育ててもらいたい」と話した=2017年6月30日、東京都千代田区

 テレワークなどと同様、ワーケーション自体の法的枠組みの問題もある。現状の就業規則との整合性などである。勤務形態により対応も異なるだろう。家庭内で多様な勤務形態、就業規則が存在する場合の整合性という問題も発生する。さらには、これはテレワークなどでも議論されていることなのだが、もしもワーケーション先で体調を崩したり、最悪、怪我をしたり、死につながることになった際の問題もある。経費に対する考え方の問題もある。情報漏えいリスクも問題だ。

 そもそも、ワーケーションという言葉自体は2017年に世に出たものであるが、2020年までの短期間に定義が広がりを見せたことに注目したい。前述したように、法人向けのオフサイト会議・研修型などは古くから存在するものである。

 さらに、ワーケーションを分類する上では、現地でどれくらいの時間、働くのかによる分類が必要だろう。仕事がメインの滞在なのか、休みがメインの滞在なのかを分けて考えるべきだろう。これは個人型=仕事メインとなるわけでは必ずしもない。前出のJALのサイトで紹介されているハワイでのワーケーションなどは、仮に夫が日中仕事に没頭することを考えると仕事メイン型ということになる。

 根本的な問題として、これは「休み方」の施策なのか「働き方」に関する取り組みなのか

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