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 あらゆる人々に基礎的所得を保障するベーシックインカム(BI)の政策・制度導入をめぐる議論が、新型コロナ感染症で大打撃を受けている世界で始まっている。この議論は日本でも本格的に行うべきだ。

 危機に強い社会をつくるには、所得の最低限が保障される社会保障システムを築くことが望ましい。コロナ危機を契機として人々が危機克服に関心を寄せている今の時期から議論をスタートし、ベーシックインカムそのものの利点と問題点、制度を設計する場合の基本的枠組み、給付水準のシミュレーションなど選択肢を幅広く検討し、将来の導入に向けて国民的合意形成を目指すことが期待される。この制度は設計次第で全体としての社会保障の抜本的強化につながるが、へたをすると全体としての社会保障の削減にもつながりかねず、そうした悪用を許さないためにも多くの人々によるさまざまな角度からの議論参加が必要だ。

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危機に強い社会の柱にBIを

 筆者は5月に「独立メディア塾」(君和田正夫氏と関口宏氏が共同主宰)に「コロナが迫る経済社会の大転換」と題した拙文を寄せ、その中でコロナ危機を克服する人類社会がこれから目指すべきものとして、不平等の是正による社会を挙げ、具体的には医療サービスとベーシックインカムを保障すべきであると書いた。

 コロナに限らずグローバル化の影としてこれからも人類を波状的に苦しめる感染症の危機に備える経済社会をつくるには、解雇や休業などで危機のしわ寄せを食いやすい貧しい人々や中小零細企業への再分配と補償を充実することが不可欠であると考えるからである。

 非正社員の社員転換を進めることも重要だが、それに限らず国内総生産(GDP)の6割を占める大黒柱である消費の基盤を固め、経済崩壊を防ぐには個々の人々の所得保障を社会保障の中軸に位置付けるべきであると考えたのである。

 筆者は、以下のように書いた。

 日本の経済対策で1人10万円支給が盛り込まれた。これを将来にわたる改革の一歩として位置づけ、ポスト・コロナの経済社会では「ベーシックインカム」(BI)をすべての人に毎月支給するという仕組みづくりを展望できないだろうか。やがて人工知能(AI)が様々な場面で人間に代わる時代にはベーシックインカムが必要になるという議論もあるが、この制度を危機に強い経済社会の柱に据えることを考える時ではないか。

 あらゆる個人に何らかの基礎的所得を支給しようというベーシックインカムの制度は、最低所得保障制度、あるいは最低生活保障制度などと訳され、まだ本格導入した国はないが、世界でコロナ危機を契機として試験的な導入や検討が進んでいる。そのことを知るにつけ、日本でもやがては導入すべきではないかという考えのもと、少なくとも議論だけは今の時期から本格的に行うべきであると考えたのである。菅政権の誕生で、規制改革や社会保障制度が注目され、総選挙も想定されるといわれるだけに、ベーシックインカムをめぐる論争の環境ができつつあると言ってよいのではないだろうか。少なくとも総選挙では、この問題を真正面から論じあってほしいものである。

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筆者

小此木潔

小此木潔(おこのぎ・きよし) 上智大学教授(政策ジャーナリズム論)、元朝日新聞論説委員

上智大学教授。群馬県生まれ。1975年朝日新聞入社。富山、奈良、大阪、ニューヨーク、静岡、東京で記者をしてきた。近年は日本の経済政策や世界金融危機など取材。2009年5月から東京本社論説委員室勤務、11年4月からは編集委員も務め、14年4月から現職。著書に「財政構造改革」「消費税をどうするか」(いずれも岩波新書)、「デフレ論争のABC」(岩波ブックレット)。

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