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「コロナ禍の株主総会」を振り返る~株主の権利は守られたのか

企業間で格差。会計監査にも課題

加藤裕則 朝日新聞記者

 コロナ禍で行われた2020年3月期の上場企業の株主総会は異例ずくめだった。企業は株主に来場の自粛を呼びかけ、多くの株主がこれに従って無事に終わった。

 しかし、ここに来て、株主への情報提供や対話は十分だったのか、との声があがっている。総会の前提となる決算や会計監査についても課題が浮かび上がっている。

2020年3月期の主総会はコロナ禍で行われた2020年3月期の株主総会はコロナ禍で行われ、会場前では体温測定などが実施された

 三井住友信託銀行の調べでは、今年の株主総会への平均参加人数は33人で、昨年の190人の2割程度だった。時間も昨年は55分だったが、34分になった。

 この20年間で株主総会は分散化が進み、株主との対話を重視する傾向が強まっていただけに、新型コロナウイルスの影響の大きさを印象づけた。

 一方で、このような総会の運営を認めながらも、総会後の対応に不満を持つ株主がいた。

住友化学OB 株主としての闘い

 埼玉県に住む板垣隆夫さんは、住友化学の元内部監査部長で株主でもある。同社のコーポレート・ガバナンスを高めようと8年連続で総会に出席し、質問をしてきた。今年も総会に出るつもりでいたが、会社からの参加自粛の呼びかけに応え、出席を見合わせた。

 それでも、例年と同じように事前に質問書を提出。今年は、①本総会にあたっての会社としての基本的な考え方②ESG(環境・社会・ガバナンス)とSDGs(国連の持続可能な開発目標)に関する経営について③有利子負債の大幅な増加の理由と今後の見通し、などを質問項目に入れた。

 住友化学の総会は6月24日。総会で会社側は板垣さんの質問にきちんと回答したと関係者から聞いた。しかし、会社のホームページ(HP)にその回答はなく、確かめるすべはなかった。

 同社のHPの「株主総会」のコーナーを見ると、議案を含む招集通知や決議の通知が載っている。動画もあるが、報告事項の約20分のみの形式で、議案の説明や株主との質疑応答の部分はない。

 板垣さんは、自らの質問と回答について、HPで公開することを求め、会社役員らにメールを送った。「個人的な質問ではなく、広く株主が知るべきこと」と思うからだ。そのうえで「株主総会は、株主と会社側との建設的な対話・コミュニケーションの場。自粛要請に応じた株主に対して説明責任を果たしていない」と指摘する。

 これに対し、住友化学コーポレートコミュニケーション部の担当者は、朝日新聞の取材に対し、「本年の株主総会は新型コロナウイルスの影響により、感染防止対策と法定要件の適切な履行を同時に満足させる必要があり、限られた時間、様々な制約がある中での対応とならざるをえませんでした」と回答した。情報提供の意味で、HP上のアナリスト向けの説明会の動画を参考にするよう株主らに呼びかけているという。

 また、住友化学は来年の総会での対応については、他社のケースを参考にしながら、検討していく考えを示した。

ネットで生中継株主らにネットで生中継された関西電力の株主総会

動画配信はなくていいの?

 この2者のやりとりを予想していた専門家がいた。コーポレート・ガバナンスに詳しい山口利昭弁護士だ。

 ブログ「ビジネス法務の部屋」(5月25日)では、「緊急事態宣言解除後の6月定時株主総会は(やはり)完全延期すべきである」との表題をつけて書いた。7月3日にも、「やっぱり不思議?( ゚Д゚)コロナ禍における6月定時株主総会には瑕疵があるのではないか?」と題し、論を展開している。

 7月3日のブログではこう記した。

 たとえば会社の自粛要請に従って、当日に(出席して)質問したいことについて、会社の運営に協力する形で事前質問状を出したとします。会社はこの事前質問に対して、誠意をもって総会当日に回答しました。しかし、質問をした当の本人は会社の要請どおりに出席していないのですから、ライブ中継もしくは録画配信でもなければ、取締役が説明責任を果たしたのかどうかすら確認できません。また、会社の要請に従った株主には、総会招集手続きや総会手続きに問題があったとしても、録画配信でもなければ、これを確認する機会が付与されていないのです。

 まさしく板垣さんと住友化学のケースだ。

 では、どのくらいの上場企業が、来場を控えた株主のため、総会の録画配信しているのだろうか。

企業の姿勢に格差

 3月期に限らないが、記者は、時価総額の大きい企業のHPを見てみた。主要な100社のHPから「株主総会」のコーナーに入り、総会の動画を掲載しているかどうかをチェックした。

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