米TVメディアの批判精神は健在。痛感する日本との落差
2020年11月09日
バイデン氏の当選がようやく決まった。
この数日、筆者は朝から深夜までCNNテレビの開票速報を見ていた。トランプ大統領に批判的なメディアである。情勢分析は的確で飽きなかったが、とりわけ11月5日夜(現地時間)、トランプ氏がホワイトハウスで行った記者会見の中継は見ものだった。
ちょうどバイデン氏が郵便投票の開票と共に勢い付いてきた時で、トランプ氏は「不正な選挙が行われている」「郵便投票は詐欺に満ちている」と繰り返し、「裁判に訴える」と述べた。焦りと疲労の色が見て取れた。
すると、会見が始まって間もなく、CNNの画面に「Without any evidence, Trump says he’s being cheated(何の根拠も示さず、自分は騙されているとトランプは言っています)」という、視聴者に注意喚起するテロップが、画面の下部に張り付けられたのだ。
大統領の演説を実況中継しながら、同時にその発言内容を「根拠なし」と全面否定している。そのテロップは17分間の会見の最後まで消えなかった。
こうした注意喚起の行為はCNNだけかと思ったら、NBCなど大手TVは途中で会見中継を打ち切ったという。
いくら大統領といえ、ウソの連発は許されない。中継を打ち切るのは一つの見識だが、トランプの話を、ウソを承知でしっかり聞いておこうじゃないかというCNNの対応に軍配を上げたい。いずれにしても、日本のテレビの退屈な政治報道では考えられない17分間だった。
選挙の勝敗をめぐり、アメリカ社会の緊張感は極限まで高まっている。危ないウソが流布されれば、トランプ支持派が不穏な行動に出ることが予想される局面だった。現にSNS上では、この大統領会見を受けて、バイデン陣営による陰謀論が渦巻いた。
CNNのキャスターたちは入れ替わり立ち代わり、「アメリカの民主主義は崩壊の危機に直面している」と語り、トランプファミリーからのSNS発信や大統領に肩入れするFOXニュースを遠慮なく皮肉っていた。この自由度は本当にうらやましい。
片や日本のTVメディアの、政権との距離感はどうだろうか。どれほどの自由度があるのだろうか。
日本のTV業界が安倍内閣時代の菅官房長官らによって骨抜きにされたことは、筆者の10月2日の本欄の論考『ついに「日本学術会議」に人事介入 菅首相が進める言論統制』で述べたとおりである。
一例として、NHKの「クローズアップ現代」で、国谷裕子キャスターから集団的自衛権をめぐって質問された菅氏が怒り、後日、国谷氏の降板につながったとされる事件は記憶に新しい。
以来、日本のTVの情報番組は政権の意向に気を遣い、一部の番組を除いて政権批判を自粛する傾向が顕著である。政権が暴力的な権力行使をしなくても、メディアが進んで番組内容を自主規制し、国民を順応させていく役目を果たすという、新しい”独裁“の構図ができている。
米メディアと政権が切り結ぶ距離感。あれはアメリカの話、日本は事情が違う、ですむ話ではないと思う。CNNを見ていると、日本のテレビの大統領選挙報道の分析は、世界を揺るがす関心事であるにも関わらず、正直、質量ともに何ともまどろっこしい。
CNNは6日夜、ハリス副大統領候補を伴ったバイデン氏の演説をライブ中継した。当選が目前になったバイデン氏はこう言ったのだ。
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