武田淳(たけだ・あつし) 伊藤忠総研チーフエコノミスト
1966年生まれ。大阪大学工学部応用物理学科卒業。第一勧業銀行に入行。第一勧銀総合研究所、日本経済研究センター、みずほ総合研究所の研究員、みずほ銀行総合コンサルティング部参事役などを歴任。2009年に伊藤忠商事に移り、伊藤忠経済研究所、伊藤忠総研でチーフエコノミストをつとめる。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
GDP回復に潜む懸念材料を払拭するため五中全会が打ち出した方針とは
10月末にかけて発表された米国およびユーロ圏の7~9月期GDPは、欧米経済が3月から4月にかけての新型コロナウイルス感染拡大による大幅な落ち込みから急回復したことを示した。米国のGDP成長率は4~6月期の前期比年率▲31.4%から7~9月期は+33.1%へ、ユーロ圏に至っては▲39.5%もの大幅マイナスから+61.1%へ急反発した。
日本についても、11月中旬に発表されるGDP統計で、4~6月期の前期比年率▲28.1%から7~9月期に+20%程度持ち直したことが確認される見通しである。
これら主要先進地域より一足先に回復した中国のGDP成長率は、1~3月期の前年同期比▲6.8%から4~6月期に+3.2%へ急回復、7~9月期には+4.9%へ更に伸びを高めている。
一見すると欧米に比べて勢いが無いようにも感じられるが、同じ「前年同期比」で比較すると、米国は1~3月期の+0.3%から4~6月期に▲9.0%へ落ち込み、7~9月期は▲2.9%と依然マイナス、ユーロ圏は1~3月期の▲3.3%から▲14.8%へ米国以上の落ち込みを見せ、急回復した7~9月期も▲4.3%にとどまった。日本は1~3月期の▲1.8%から米国と同程度の▲9.9%へ落ち込み、7~9月期は▲6%程度への回復にとどまったとみられる(弊社予測)。
つまり、日米欧とも底を打ったのは中国より1四半期後、しかも落ち込みは中国より大きく、冒頭の通り足元で急回復したとはいえ未だ水面下である。こうしてみると、既に前年比のプラス幅を高める段階に至っている中国経済が、いかに順調な回復を示しているのかが分かる。
中国経済の回復を牽引したのは、政府によるインフラ投資や金融緩和を追い風とした不動産投資の拡大である。元をただせば、昨年激しさを増した米国との貿易摩擦による影響を緩和するために打ち出された策の効果が、今年に入って本格化したに過ぎない。
4~6月期には、鉄道や道路、電気ガス水道などの分野で固定資産投資が前年比二桁の伸びを記録、プラス成長に大きく貢献した。加えて、政府が銀行貸出の積極的な拡大を促したことにより不動産分野の投資も伸びを高め、建設業が活況を呈した。4~6月期以降は、海外経済の持ち直しを背景に輸出が回復、成長加速に貢献した。