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トランプ大統領の敗因はコロナではない!

彼の振舞いは支持層を熱狂させても十分な多数派を形成することはできなかった

吉松崇 経済金融アナリスト

絶好調の経済の下で敗れた初めての現職大統領

 「あなたの生活は4年前に比べて良くなっていますか?(”Are you better off ?”)」

 これは1980年の大統領選で、挑戦者であった共和党のロナルド・レーガン候補が最後のテレビ討論会で有権者に向かって放った言葉だ。この一言が決め台詞となって、レーガン候補が現職のジミー・カーター大統領に圧勝したというのが、今日では「伝説」となっている。この選挙でレーガン候補は、じつに44州で勝利した。

 「大統領選挙は経済が全てだ!(”It’s the economy,stupid!”)」と言われるゆえんである。

 トランプ政権4年間のアメリカ経済は、コロナ禍に襲われるまでは絶好調であった。2017年から2019年までの3年間の実質GDP成長率は年平均2.5%に達し、2017年1月に4.7%だった失業率は2020年2月には3.5%にまで低下した。

 世論調査機関のギャラップは、前述の故レーガン元大統領の言葉を大統領選挙の度に有権者に訊ねている。そして選挙直前9月の世論調査では、実に56%の人が「4年前に比べて良くなった」と答えている(「悪くなった」と答えた人は、わずか32%である)。

 この56%という数字は、1984年のレーガン再選、2004年のG.W.ブッシュ再選、2012年のオバマ再選のいずれの時点よりも高い数字である。しかも、調査時点が9月なので、この数字にはコロナ禍に伴う景気の失速と失業率の上昇(9月時点で7.9%)も反映されている。普通の現職大統領であれば、再選が確実だと言える数字である。

 1980年以降、再選を果たせなかった現職大統領は1992年の選挙で敗れたG.H.W.ブッシュ大統領だけだが、それは選挙の前年に景気後退に見舞われたからだというのが定説である(1990-91年不況)。

 それではトランプ大統領の敗因は何なのか? コロナ対応の「失敗」なのか?

拡大ホワイトハウス周辺でトランプ大統領に対する抗議運動をする女性=2020年11月5日、ワシントン

 トランプ大統領は「科学者の助言を無視して経済活動の再開を急ぎ、コロナの蔓延を招いた。これが23万人もの死者を生んだ原因だ」と強く批判されてきた。実際、テレビ討論会でバイデン氏が一番力を入れたのが、大統領のコロナ対応への批判だった。「私は科学者の助言を聞く」というのが、バイデン氏の決まり文句だった。

 ところが、同じくギャラップによる大統領の支持率(不支持率)の調査を見ると、この4年間で大統領の支持率が最も高かったのが今年の5月の49%であり、まさにコロナの第一波に襲われた直後なのだ。


筆者

吉松崇

吉松崇(よしまつ・たかし) 経済金融アナリスト

1951年生まれ。1974年東京大学教養学部卒業。1979年シカゴ大学経営大学院(MBA)修了。日本債券信用銀行(現あおぞら銀行)、リーマン・ブラザース等にて30年以上にわたり企業金融と資本市場業務に従事。10年間の在米勤務(ニューヨーク)を経験。2011年より、経済・金融の分野で執筆活動を行う。著書:『労働者の味方をやめた世界の左派政党』 (PHP新書、2019年)、『大格差社会アメリカの資本主義』(日経プレミアシリーズ、2015年)。共著:『アベノミクスは進化する』(中央経済社、2017年)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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