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携帯通話料値下げ問題を「日本の仕組み」から考える

根底にある規制の構造と、その課題

茂垣 昌宏 慶応義塾大学大学院法学研究科研究員・ 産業研究所共同研究員

1 繰り広げられてきた「政治主導」の携帯通話料論議

 携帯通話料の値下げ議論は、今から5年ほど前の2015年9月11日に当時の安倍首相が経済財政諮問会議の席上で「携帯電話の家計の負担軽減は大きな課題だ」と発言し、これを高市早苗総務大臣が「年内に料金低廉化の具体策をまとめる」と引き取ったのが始まりである。

 総務省はこの問題に関する研究会を開催して報告をまとめるという、いわば伝統的に日本の官僚が行う対応をしたが、その結果として出た端末販売の適正化、ドコモなど携帯電話回線事業者(MNO)からネットワークを借りる仮想移動体通信事業者(MVNO:俗に言う格安スマホ)の参入促進、総務省から携帯事業者への料金低廉化の正式要請といった成果は、官僚や企業などの専門家にとってはともかく、ふつうの消費者など一般の人には分かりにくく、竜頭蛇尾に終わった感があった。

 続いて、第二次安倍政権発足以来ずっと任に就いていた菅義偉官房長官が、2018年8月21日に札幌の講演先で「携帯電話料金は今より4割下げる余地がある」という趣旨の発言をし、大手携帯電話会社が多額の利益を上げていることに触れ「競争が働いていないといわざるを得ない」と問題視したことで第二幕が始まった。

 この時、その実行力が知られ元総務大臣として総務省の所管分野に詳しい菅官房長官の動きに、携帯電話料金の抜本的な値下げを期待した向きもあったであろう。しかし、実際には、この時も大幅値下げなどインパクトの大きい成果は達成できず、菅氏は報道によれば当時「総務省はなめられてるんじゃねえか」と発言したと伝わる。菅氏が今回この話を蒸し返すのは、政治家として自然であり、予期された反応といえる。

衆院本会議で首相指名を受ける菅義偉・自民党総裁=2020年9月16日、国会内拡大衆院本会議で首相指名を受ける菅義偉・自民党総裁=2020年9月16日、国会内

 今年9月の菅政権発足以来、政権の目玉案件の一つとして菅首相や武田総務大臣など、政府の主要関係者から料金の大幅値下げに向けた発言が相次ぎ、メディアにより大きく取り上げられた。これまで菅政権が発してきた様々な政策の発信は具体性の高いものが多いが、規制分野では携帯通話料の値下げが際立っている。

 本稿は、通話料が高いかどうか、下がらない理由はなにか、官邸主導の値下げが起きる理由、そして今後何が必要なのかを論じる。

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筆者

茂垣 昌宏

茂垣 昌宏(もがき・まさひろ) 慶応義塾大学大学院法学研究科研究員・ 産業研究所共同研究員

1972年、東京都生まれ。博士(政治学・英国シェフィールド大学)。郵政省、外務省、総務省、内閣官房などの勤務を経て、慶應義塾大学大学院法学研究科研究員(ガバナンス、公共政策、行政学)・ 産業研究所共同研究員。著書に Understanding governance in contemporary Japan: Transformation and the regulatory state(英国マンチェスター大学出版局)など。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです